量子力学のテキストには、大雑把に分けて、シュレーディンガー方程式から
スタートするテキストと、そうでないテキストとの二種類がある。
前者の中でも、天下り的にシュレーディンガー方程式が与えられるものは、唐突感が否めない。
一方、後者の中にはまず、古典力学では説明できない現象からスタートするものがある。例えば、
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19世紀末のドイツ、プロイセンにて、鉄血宰相ビスマルクは、軍備拡張について論じた演説の中で、
国家に必要なのは、「鉄(武器)」と「血(兵士)」であると説いた。その為、製鉄業が発展するわけだが、
鍛冶屋のマイスター達は、溶鉱炉を覗いただけで、その温度を測ることが出来た。
しかし、大量生産の為には、そうした職人芸ではなく、科学的な理解が必須であり、
光の強度と波長の関係に関しての学術的な研究が、大学へと持ち込まれた。現在の産学共同のようなものだろう。
ウィーンによって、熱輻射(thermal radiation)において、物体が発する光の波長と、
その時の絶対温度との積が一定であることが見出された。では、この「物体」として、
どのような物質を仮定すれば良いのだろうか。この思考実験の結果、理想的な物質として、
全ての波長の光を吸収する物質、即ち、「黒体」を仮定することが必要となる。
光の強度と光の波長との関係を調べる為、光のエネルギー密度uを
光の波長λの関数u(λ)として表した式に、
ウィーン(Wien)の式:
とレイリー・ジーンズ(Rayleigh-Jeans)の式:
がある。ここで、cは光速、kB(≒1.38×10-23)は
ボルツマン定数、Tは絶対温度であり、
定数h(≒6.6×10-34)は、後に「プランク定数」と呼ばれることになる。
また、光の振動数をνとすると、光速cは、
光の波長λと光の振動数をνの積として、
c=νλ
と書けるので、この関係を用いて、ウィーン(Wien)の式:
及び、レイリー・ジーンズ(Rayleigh-Jeans)の式:
は、上記の様に、光のエネルギー密度uを光の振動数νの関数u(ν)として表すこともできる。
光の波長λは、低温のとき長く、高温のとき短い。
光の振動数νは、低温のとき小さく、高温のとき大きい。
ウィーンの式は、光の波長が短い領域では、実験結果と合うが、
光の波長が長い領域では、測定データとずれてしまう(
赤外域破綻/赤外カタストロフィー)。
レイリー・ジーンズの式は、光の波長が長い領域では、実験結果と合うが、
光の波長が短い領域では、測定データとずれてしまう(
紫外域破綻/紫外カタストロフィー)。
絶対温度T | 低温 | 高温 |
波長λ | 長い | 短い |
振動数ν | 小さい | 大きい |
ウィーン(Wien)の式 | × 赤外域破綻 (赤外カタストロフィー) |
○ |
レイリー・ジーンズ(Rayleigh-Jeans)の式 | ○ | × 紫外域破綻 (紫外カタストロフィー) |
ウィーンの式とレイリー・ジーンズの式についてまとめると以下のようになる。
ウィーン(Wien)の式 | レイリー・ジーンズ(Rayleigh-Jeans)の式 | |
光の波長λの関数u(λ) | ![]() |
![]() |
光の振動数νの関数u(ν) | ![]() |
![]() |
低温 光の波長λが長い領域 光の振動数νが小さい領域 |
× 赤外域破綻 (赤外カタストロフィー) |
○ |
高温 光の波長λが短い領域 光の振動数νが大きい領域 |
○ | × 紫外域破綻 (紫外カタストロフィー) |
光のエネルギー密度uを光の波長λの関数u(λ)として表したプランクの式は、
という式で表される。また、光速c、光の波長λ、光の振動数νの関係:
c=νλ
を用いて、光のエネルギー密度uを光の振動数νの関数u(ν)として、
と表すこともできる。プランクの式は、ウィーンの式の分母から
1を引くことによって得られた(この様な操作を「内挿」と呼ぶ)。
プランクの式は、ウィーンの式を含んでいる。光の振動数νが大きい領域では、
ehν/kBTは、1に比べて、十分に大きいと見なせるから、
と近似することが出来て、ウィーンの式を得る。
また、プランクの式は、レイリー・ジーンズの式も含んでいる。
ウィーンの式の分母:ehν/kBTを
テイラー展開(マクローリン展開)すると、
となるが、ここで、光の振動数νが小さい領域では、
ehν/kBTは、1に比べて、十分に小さいと見なせるから、
2乗以上の第3項以下は、微小量となって無視することができる。従って、
のように近似することが出来て、これをプランクの式の分母に代入すると、
となって、レイリー・ジーンズの式を得る。
ところで、プランクの式の分母は、分子分母に、
e-hν/kBTを掛けると、
無限等比級数の和の形に変形できる(「無限等比級数の和とテイラー展開」も参照)。
ここで、β≡1/kBTと置くと、統計力学の
カノニカル分布(正準集団、カノニカルアンサンブル)
における分配関数Zの式と比較して、
となることから、エネルギーEがnhν、即ち、
hνを基底エネルギーとして、その自然数倍という離散的な量でしか、
エネルギー形態は存在しないということを意味することになる。
光のエネルギー密度uをスペクトル全体、即ち、
光の振動数νに対して、積分すると、
となる。但し、計算途中で、「ベータ関数・ガンマ関数・ゼータ関数・イータ関数
(β関数・Γ関数・ζ関数・η関数)」の「ゼータ関数とガンマ関数の関係」を用いた。
エネルギー密度ρと、放射強度Iとの関係式から、
となって、放射強度Iが、絶対温度Tの4乗に比例するという結果を得る。
これを「シュテファン・ボルツマンの法則」或いは、「ステファン・ボルツマンの法則」と呼ぶ。
ここで、σは、「シュテファン・ボルツマン定数」或いは、「ステファン・ボルツマン定数」と呼ばれる。
※日本語では、「シュテファン」「ステファン」等の表記揺れがある。
「ステファン」は、英語読みであり、ドイツ語の発音としては、「シュテファン」が正しい。
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