トンネル効果について、書かれている文献の殆どが、
書籍によって用いられている記号もかなり異なり、
最終結果の式の形もバラバラで千差万別、
その上、途中計算が端折られていることが多いので、
ここでは、それらの補完を試みることにする。
反射と透過も、古典論と量子論とでは、異なっている。
「古典力学」では、自由粒子のエネルギーEが、
ポテンシャル障壁のポテンシャルエネルギーV0より、
大きければ、反射せずに全て透過するし、
小さければ、透過せずに全て反射する。
古典論 | 反射 | 透過 |
E≫V0 | × | ○ |
E>V0 | × | ○ |
E<V0 | ○ | × |
E≪V0→∞ | ○ | × |
しかし、「量子力学」では、波動関数のエネルギーEが、
ポテンシャル障壁のポテンシャルエネルギーV0に対し、
大きかったとしても、V0がEに比べて、極端に小さくない限り、
全てが透過するということはなく、一部には、反射する場合もあるし、
或いは、小さかったとしても、V0→∞の様に極端に大きくない限り、
全てが反射するということはなく、一部には、透過する場合もある。
後者を特に、「トンネル効果(tunnel effect、或いは、tunneling effect)」と呼ぶ。
逆に、上記の様な極端な例こそが、「古典力学」の現象であり、
そのような条件を「古典極限」と呼ぶ。
量子論 | 反射 | 透過 |
E≫V0 | × | ○ |
E>V0 | ○ | ○ |
E<V0 | ○ | ○ |
E≪V0→∞ | ○ | × |
ポテンシャル障壁の厚みがa、ポテンシャルエネルギーの大きさがV0であるような、ポテンシャル障壁を考える。
波動関数は、ポテンシャル障壁がない場所では、自由粒子のように振る舞うものとする。
ポテンシャル障壁の片方の端を原点に取ると、この波動関数のシュレーディンガー方程式、及び、
空間のポテンシャルエネルギーV(x)は、次式で表される。
さらに、V0<Eの場合と、0<E<V0の場合で、
シュレーディンガー方程式の連立微分方程式と、
波動関数とその一次導関数は、次の表の様になる。
V0<Eの場合 | 0<E<V0の場合 | |
シュレーディンガー方程式の 連立微分方程式 |
![]() |
![]() |
波動関数と その一次導関数 |
![]() |
![]() |
定数係数A、B、C、D、F、Gの6つが未知数であるが、
ポテンシャル障壁を透過した後のx>aの波動関数に関しては、
進行波(入射波)のみを考え、後退波(反射波)は考えなくて良いので、G=0となる。
それでも、式が4本であるのに対し、未知数が5つなので、最終的には、比の形で求められる。
※ここで、Dの次がFになっているのは、Eは既にエネルギーとして予約語の様に使われている為である。
※テキストによっては、透過波の係数をC、ポテンシャル障壁内の係数をD、F、
或いは、F、Gとしている場合がある。後者の場合、同様の理由で、D=0となる。
また、k 、k' 、κ は、次式で定義される。
因みに、κ は、ラテンアルファベットのk に相当するギリシャ文字(ギリシア文字)であり、「カッパ」と読む。
但し、k' は、「プライム」(「ダッシュ」とは読まない)記号が付いているが、勿論、微分の導関数という意味ではない。
次に、x=0、及び、x=aにおいて、波動関数が連続であり、かつ、
滑らかに繋がっている必要があるから、波動関数とその一次導関数について、
x=0における境界条件とx=aにおける境界条件を求める必要がある。
V0<Eの場合と、0<E<V0の場合のそれぞれに対し、
x=0における境界条件とx=aにおける境界条件をまとめたものが以下の表である。
但し、係数G=0を暗黙の了解として代入した。
V0<Eの場合 | 0<E<V0の場合 | |
x=0における境界条件 | ![]() |
![]() |
x=aにおける境界条件 | ![]() クラメルの公式より、 ![]() ※分子・分母を i で約分した。 |
![]() クラメルの公式より、 ![]() |
これで、AとBが、CとDの式で、
CとDが、Fの式で表されたので、
今度は、前者に後者を代入して、AとBをFの式で表すことが出来るようになる。
V0<Eの場合 | 0<E<V0の場合 | |
AをFの式で表す | ![]() ※最終行への式変形時に、分子・分母に i を掛けた。 |
![]() |
BをFの式で表す | ![]() |
![]() |
V0<Eの場合は、実時間(実数時間)の単振動(調和振動)の
微分方程式の形になるので、その一般解には、三角関数が現れるが、
0<E<V0の場合は、虚時間(虚数時間)の単振動(調和振動)の
微分方程式の形になるから、その一般解には、双曲線関数が現れる。
前節で、AをFで表した式と、BをFで表した式が揃った。
波動関数の絶対値(ノルム)の2乗が、粒子の存在確率を与えるので、
前者で後者を割った絶対値の2乗から反射率Rが得られ、
前者の式からAとFの比をとった絶対値の2乗から透過率Tが得られる。
V0<Eの場合 | 0<E<V0の場合 | |
反射率R |
![]() ここで、k 、k' の定義より、 ![]() を代入して、 ![]() |
![]() ここで、k 、κの定義より、 ![]() を代入して、 ![]() |
透過率T | ![]() ※上式より、「T+R=1」の関係が成り立つ。 |
![]() ※上式より、「T+R=1」の関係が成り立つ。 |
透過率Tの近似式も書籍によって異なっていたので、比較を試みたい。
双曲線関数sinh xは、x≫1のとき、
sinh x ≈ ex/2と近似できるので、
κa≫1のとき、
sinh κa ≈ eκa/2
⇔sinh2κa ≈ e2κa/4と近似でき、
分母の他の項4k2κ2も無視できる(以降、これを「近似その1」と呼ぶ)。
従って、「近似その1」の計算をまとめると、
の様になり、最終行で近似したように、透過率Tのオーダーは、殆ど指数関数部分で決まる。
一般の山型ポテンシャルも幾つかの箱形ポテンシャルの連続と見なすと、山型ポテンシャルの透過率Tは、
各箱形ポテンシャルの積で与えられ、指数関数の積は、指数部分が和の形で表されるが、各箱形ポテンシャルの
ポテンシャル障壁の厚みを小さくしていくと、極限的には、指数部分の離散和が、積分で表される。
これは、「ガモフ因子」と呼ばれ、原子核のα崩壊の理論や、トンネルダイオードなどの説明に使われている。
一方、分母の括弧(k2+κ2)2内を更に展開して、
(k2+κ2)2
=k4+2k2κ2+κ4
とすると、透過率Tの式の分母は、κ4のみが残る(以降、これを「近似その2」と呼ぶ)。
k及び、κの定義式に戻って、E及び、V0で表すと、「近似その2」の計算は、
の様になる。但し、最終行で、分母をE≪V0の関係を用いて更に近似した。
|