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速習・量子力学
第壱講 シュレーディンガー方程式

量子力学のテキストの大半は、シュレーディンガー方程式からスタートする。
しかも、理論物理学では、シュレーディンガー方程式は「原理」であり、
「他の何かから導出されるものではない」とし、
「実験で正しいことが分かっているから」といって、
何故、シュレーディンガー方程式が成り立つのか、を追求することもない。
実験系や工学系などでは、さらに酷い場合、天下り的に
シュレーディンガー方程式を与えられ、丸暗記を強要される為、唐突感が否めない。

一方、ファインマンやディラックのテキストの場合、ある程度読み進めて漸く、
シュレーディンガー方程式が登場する。そして、シュレーディンガー方程式から、
量子力学を学び始めるやり方について、ディラックは
「凡庸な学生には向いているかもしれないが…」と述べている。

前者にせよ、後者にせよ、随分と両極端な傾向である。
前者に関していえば、理論物理学ではなく、数理物理学の観点から
シュレーディンガー方程式について述べると、解析力学を「原理」とすれば、
形式的には導出と見なせるが、ここでは、解析力学の知識は前提とせず、
高等学校の物理における、原子物理の分野(「前期量子論」)と、
若干の特殊相対論(「特殊相対性理論」)と、前講「黒体輻射」の知識程度を前提に述べる。
ここでは、説明も厳密性を重視しない。また、初学者を対象とする為、
最初は、1次元のシュレーディンガー方程式に限定し、後で3次元化する。

後者に関していえば、それらのテキストが書かれた頃とは時代が異なっている点と、
場の理論やブラケット記法等を前提としなければならない点を鑑みて、ここでは述べないことにする。




古典論から量子論へ

19世紀までに殆ど完成された「古典物理学」においては、
「光」は「波動」であり、「電子」は「粒子」である、と思われていた。

古典論 粒子性 波動性
×
電子 ×

しかし、アインシュタインの「光量子仮説」や、ド・ブロイの「物質波」を経て、
光、或いは、電子は、「粒子であり、波動でもある」と思われるようになってきた。
しかし、これは当時の考え方であり、現代では、光、或いは、電子は、
「粒子でも波動でもない何か」であると、考えられている。

量子論 粒子性 波動性
電子




波動

高等学校の物理の範囲から、適当に復習しておこう。速度の定義より、

  x  
v
xvt
  t  
であるが、その波動版として、x→波長λt→周期T に置き換えると、
  1  
λvT ⇔v=fλ (∵f
  T  
となる。さらに、v→光速cf→光の振動数ν に置き換えると、
cνλ
を得る。




プランク定数

ある量の整数倍しかとらない物理量があるとき、
その単位量のことを「量子」という。
エネルギーの場合、黒体輻射のプランクの式より、

  hc  
Ehν
 (∵cνλ
  λ  
が「量子」となる。ここで、定数h(≒6.6×10-34)[J・sec]は、
プランク定数と呼ばれている。また、特殊相対性理論より、
E2c2p2m2c4
であるが、光の質量:m=0とすると、
Ecp
であるから、先程のエネルギーの式の両辺をcで割れば、運動量の式:
  E   hν   h  
p


 (∵cνλ
  c   c   λ  
になる。




ディラック定数

上記のままだと、分数形式となって扱い難いので、
ディラック定数「ℏ」(≒1.05×10-34)[J・sec]:

  h

  2π
及び、角振動数(「角周波数」とも呼ぶ)ω
  2π  
ω
=2πf=2πν
  T  
及び、波数k
  2π
k
  λ
を導入する。(ディラック定数「ℏ」は、「エイチバー」、
或いは、「ディラックのエイチ」とも呼ばれる。)

すると、エネルギーの式は、

  h  
Ehν
・2πνω
  2π  
と表せるし、運動量の式は、
  h   h   2π  
p


k
  λ   2π   λ  
と簡潔に表せる。




粒子性と波動性

粒子性と波動性に関して、エネルギーと運動量を表にまとめると、以下の様になる。

  粒子性 波動性
エネルギー Ehνω
運動量 pmv
また、ハミルトニアンℋは、運動エネルギーとエネルギーの和として、

と表せるから、
E
と書くこともできる。




エネルギーと運動量の関係

全エネルギーは、運動エネルギーとエネルギーの和に等しい。
解析力学では、速度vではなく、運動量pで表す。
さらに、エネルギーEと運動量pを角振動数ωと波数kで表すと、

と「エネルギー保存則の式」を変形できる。




運動量演算子などの演算子

波動関数:
Ψ(x, t)= Aei(kxωt)
を位置xで偏微分すると、

となるが、運動量を波動関数に掛けると、

となって、運動量演算子:

を得る。

さらに波動関数をもう一度、位置xで偏微分すると、

となるが、運動量の2乗を波動関数に掛けると、

となって、運動量の2乗の演算子:

を得る。

今度は、波動関数を時刻tで偏微分すると、

となるが、エネルギーを波動関数に掛けると、

となって、同様に、エネルギーの演算子:

を得る。

演算子(オペレータ)は、作用する対象(オペランド)があってこそ意味を成す。
従って、等号(「=」、イコール記号)で単純に結ぶのではなく、
演算子であることを明示する為に、ハット記号(サーカムフレックス)を付与するか、
演算子化したという意味で、矢印(「→」)で表すかした方がいい。
ここでは、強調の為、その両方を用いた。




シュレーディンガー方程式

前々節の「エネルギー保存則の式」において、
エネルギーEと運動量pを前節の手順に従って演算子化し、
これを波動関数:
Ψ(x, t)= Aei(kxωt)
に左側から作用させると、

という結果を得る。これが、「シュレーディンガー方程式(Schrödinger equation)」である。
なお、「Schrödinger」の綴りのウムラウト「ö」が出力できない環境下では、
「ö」の代わりに、「oe」として、「Schroedinger」と書くのが、ドイツ語の綴りとしては正しい。




時間に依存しないシュレーディンガー方程式

波動関数:Ψ(x, t)を
Ψ(x, t)=f(t)ψ(x)
と置いて、変数分離すると、

となって、時間依存の有無によって変数を分離できる。
その際、波動関数の絶対値(ノルム)の2乗は、「確率密度」と呼ばれ、
その位置、及び、時刻における、粒子の存在確率を与える。ここで、上記の場合、

という結果となり、時間に依存しない「定常状態」であることが示された。
このとき、「時間に依存しないシュレーディンガー方程式」:

が成立する。左辺の中括弧内の演算子をハミルトニアン演算子:

で置き換えると、このシュレーディンガー方程式は、

と書けて、非常にシンプルな式になる。




3次元のシュレーディンガー方程式

前々節の(時間を含む)「シュレーディンガー方程式」を3次元化すると、

となる。座標x, y, zを明示した場合、
それらを位置ベクトルrとナブラ演算子の2乗2でまとめた場合、
ナブラ演算子の2乗をラプラシアンで書き直した場合の3通りの方法で表現した。

前節の(時間を含まない)「時間に依存しないシュレーディンガー方程式」も同様に、

の3通りの方法で表現できる。また、ハミルトニアン演算子もまた、同様に、

の3通りの方法で表現できる。ベクトルは、矢線を付すか、太字にするかのどちらかで
表現すれば良い(ここでは、強調の為、矢線を付し、かつ太字にしている)。




参考文献

  1. 「単位が取れる量子力学ノート」(講談社、2004年)
  2. 「今日から使える量子力学」(講談社、2006年)
  3. 「裳華房テキストシリーズ - 物理学 量子力学」(裳華房、2007年)
  4. 「講談社基礎物理学シリーズ 6 量子力学」(講談社、2009年)



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