エルミート多項式(Hermite polynomial)は、
スツルムリウビル型微分方程式の一つである、
エルミートの微分方程式を満たす多項式Hn(x)のことをいう。
ここでは、まず最初に、母関数からロドリーグ(Rodrigues)の公式及び漸化式を導出する。
※文献によって表記揺れがあり、ロドリーグの公式は、ロドリゲスの公式と呼ばれる場合もある。
次に、両者から多項式を求め、続いて、漸化式からエルミートの微分方程式を導出する。
また、逆に、ロドリーグの公式から母関数を導出し、さらに、エルミート多項式の直交性を示して、
その応用として、1次元調和振動子の固有関数のグラフを示すという方針をとる。
そして、最後に、物理数学の書籍と情報数学の書籍で、
異なる定義が採用されていたことにも言及しておく。
エルミート多項式の母関数は、
で定義される。これに、重み関数w(x):
を掛けた関数:
を定義する。これをt=0のまわりでテイラー展開すると、
となるから、これを母関数と比較すれば、
となるので、
を得る。ところで、f(t, x)を
t, xでそれぞれ偏微分すると、
となるので、
が成り立ち、n回の偏微分では、
が成立する。従って、
と変形し、最終的にロドリーグの公式:
を得る。これを用いて、n=0, 1のときの
エルミート多項式を計算すると、
を得る。
今度は、母関数g(t, x)を
t, xでそれぞれ偏微分すると、
前者より、
となる。ここで、tnの冪を揃える為に、
右辺でn→n+1、左辺第2項でn→n-1とすると、
これが任意のtについて成立する為には、
tnの係数が等しくなければならないから、
両辺にn! を掛けて、
が得られる。これを用いて、
n=2, 3, 4, 5のときの
エルミート多項式を計算すると、
同様にして、後者において、左辺でn→n-1とすると、
これが任意のtについて成立する為には、
tnの係数が等しくなければならないから、
両辺にn! を掛けて、
が得られる。これを先程得た式と合わせると、
となるが、さらにこの式の両辺をxで微分すると、
ここで、次数を揃える為に、
と置くと、
となるから、エルミートの微分方程式:
が得られる。さらに、両辺にw(x)を掛けて、
とする。ここで、
であることを考えると、
という形で書くことも出来る。
これは、スツルムリウビル型微分方程式:
において、
と置いた場合に他ならない。
グルサ(Goursat)の定理:
より、ロドリーグの公式を変形すると、
となるので、母関数の定義より、
の様に変形できる。ここで、無限等比級数の和:
を用いて、留数定理(residue theorem)より、
となって、最終的にエルミート多項式の母関数:
を得る。
今、添え字の異なる2つのエルミート多項式の母関数:
を考える。両者の積に重み関数w(x)を掛けて、
区間(-∞, ∞)で積分すると、
となる。ここで、
であるから、ガウス積分及び指数関数のマクローリン展開より、
という形に式変形することが出来る。
但し、δmnは、クロネッカーのデルタであり、
である。ここで、tmsnの係数を比較すると、
エルミート多項式の直交性:
を示すことが出来る。ここで、m=nのとき、
であるから、
と置くと、これは1次元調和振動子の固有関数に他ならない。
これをグラフ作成ツール「gnuplot」を用いて、グラフ化する。
「gnuplot」を起動して、以下のコマンドを入力し、グラフを生成する。
(勿論、出力先のディレクトリは、各自の環境に応じて適宜変更する。)
set terminal png set xrange[-5:5] set yrange[-1:1] set xtics 0.5 set ytics 0.1 set grid h0(x)=1 h1(x)=2*x h2(x)=4*x**2-2 h3(x)=8*x**3-12*x h4(x)=16*x**4-48*x**2+12 h5(x)=32*x**5-160*x**3+120*x un(n)=1/sqrt(sqrt(pi)*2**n*n!) u0(x)=h0(x)*un(0)*exp(-x**2/2) u1(x)=h1(x)*un(1)*exp(-x**2/2) u2(x)=h2(x)*un(2)*exp(-x**2/2) u3(x)=h3(x)*un(3)*exp(-x**2/2) u4(x)=h4(x)*un(4)*exp(-x**2/2) u5(x)=h5(x)*un(5)*exp(-x**2/2) plot u0(x) replot u1(x) replot u2(x) replot u3(x) replot u4(x) set output 'c:\temp\hermitegraph.png' replot u5(x) exit |
そして、とても紛らわしいことに、エルミート多項式の定義には、複数の流儀があるようだ。
ここまで上述の定義(これを「定義1」としよう)に従って計算してきたし、
物理数学の書籍の殆どが、同様の定義で記載されていることから、
おそらくこちらの定義が主流であるだろうと思われる。ただ、情報数学など、
他の分野の書籍によっては、重み関数w(x)が、
の形で定義(こちらを「定義2」とする)されているものがあった。
この場合、直交関係:
が成立し、ロドリーグの公式は、次の様になる。
これを用いて、n=0, 1, 2, 3, 4, 5のときの
エルミート多項式を具体的に計算すると、
H0(x)=1
H1(x)=x
H2(x)=x2-1
H3(x)=x3-3x
H4(x)=x4-6x2+3
H5(x)=x5-10x3+15x
となる。以上をまとめたものを次の表に示す。
定義1 | 定義2 | |
---|---|---|
重み関数w(x) | e-x2 | e-x2/2 |
直交関係 | ![]() |
![]() |
ロドリーグの公式 | ![]() |
![]() |
n=0, 1, 2, 3, 4, 5のときの エルミート多項式 |
H0(x)=1 H1(x)=2x H2(x)=4x2-2 H3(x)=8x3-12x H4(x)=16x4-48x2+12 H5(x)=32x5-160x3+120x |
H0(x)=1 H1(x)=x H2(x)=x2-1 H3(x)=x3-3x H4(x)=x4-6x2+3 H5(x)=x5-10x3+15x |
|