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速習・量子力学
第参講 調和振動子

実際にシュレーディンガー方程式が正確に解けるのは、

  1. ポテンシャルのない場合(自由粒子)
  2. 調和振動子の場合
  3. 水素原子中の電子
の3つの場合しかなく、これ以外は、多かれ少なかれ
摂動論やWKB近似等の近似計算に頼るしかない。
調和振動子(harmonic oscillator)とは、高等学校の物理における、
いわゆる「単振動」のことである。ここでは、1次元の調和振動子を考える。
まずは、実際に1次元の調和振動子のシュレーディンガー方程式を解き、
次に、ボーア・ゾンマーフェルトの量子条件で、エネルギー固有値を求め、
古典論と量子論の両者における計算結果を比較する。

両者の計算結果における相違は、古典系での物理量が、
量子力学においては、物理量演算子となり、乗法に対して非可換、
即ち、積の交換法則が成立しないことに起因すること、及び、
「交換関係(commutation relation)」や、「不確定性関係(uncertainty relation)」の
影響を受けることを、ディラックによる調和振動子の演算子解法によって示すことが
目標となるのだが、演算子解法は、テキストによって、解法が少しずつ異なり、
全容を把握しづらくなっている為、ここでは、それらの解法の比較も試みる。

目次

調和振動子のシュレーディンガー方程式
調和振動子のシュレーディンガー方程式の無次元化
調和振動子のエネルギー固有値と固有関数
ボーア・ゾンマーフェルトの量子条件
物理量と演算子
交換関係
生成演算子と消滅演算子
ディラックによる調和振動子の演算子解法
不確定性
不確定性関係
相加平均と相乗平均の関係
零点振動エネルギー




調和振動子のシュレーディンガー方程式

高等学校の物理の範囲から、単振動の変位xは、
xA sin ωt
これをtで微分し、速度vは、
vAω cos ωt
更にtで微分し、加速度aは、
a=-Aω2 sin ωt
変位xと加速度aの両式を比較して、
a=-ω2x
これと、単振動の運動方程式:
Fma=-kx
を比較して、
kmω2
を得る。高等学校の物理の範囲における単振動の位置エネルギーUは、
Ukx2/2
で表したが、量子力学における単振動(調和振動子)を考える際は、
これをポテンシャルエネルギーVと呼び、
Vkx2/2 =mω2x2/2
の様に、ωを用いて表す。これをシュレーディンガー方程式に代入して、
調和振動子のシュレーディンガー方程式:

を得る。ここで、全ての項を左辺に移項し、2階微分の項の係数を正規化して1にすると、

となる。このとき、1次元の調和振動子では、変数がxしかないので、
上式のように、偏微分を常微分に置き換えても一般性を失わない。

まず、xが非常に大きい場合、mω2x2/2>>E となるから、E=0として、

とすると、この方程式の解は、xで1回微分する毎にψ(x)の 係数に(mω/)xが付けば良いが、
±の符号のうち、+の方は|x|→∞で発散してしまうので、
|x|→∞でψ(x)→0となる-符号の場合のみと予想でき、

と置いて、xに対する1階微分:

及び、xに対する2階微分:

を実際に、調和振動子のシュレーディンガー方程式に代入して、

が得られる。




調和振動子のシュレーディンガー方程式の無次元化

このとき、得られた調和振動子のシュレーディンガー方程式にも、
2箇所にmω/が出現していることが分かる。
各変数の次元は、m[kg]、ω[1/sec]、[J・sec=kg・m2/sec]なので、
mω/の次元は、[kg]と[sec]を消去できて、[m-2]となり、
その正の平方根をxに掛けて、新たな変数ξと置けば、無次元の量となって、

の様に変数変換が出来て、新たな変数ξで先程の調和振動子のシュレーディンガー方程式を書き換えると、

となって、調和振動子のシュレーディンガー方程式の無次元化が完了する。




調和振動子のエネルギー固有値と固有関数

無次元化された調和振動子のシュレーディンガー方程式は、
「エルミート多項式」の記事に登場した、「エルミートの微分方程式」:

と同じ形をしている。即ち、新たに定義した変数εは、
エルミートの微分方程式におけるnに相当し、これに対応するEは、
調和振動子の第n励起状態のエネルギー固有値Enであり、
調和振動子のエネルギー準位の式:

を導くことができる。特に、n=0のとき、E0ω/2を
「零点振動エネルギー」と呼ぶ。また、u(ξ)は、
エルミート多項式Hn(ξ)に相当し、エルミート多項式の直交性:

において、mnのとき、

となって、調和振動子の第n励起状態の固有関数として、波動関数ψn(x)の式も導かれる。




ボーア・ゾンマーフェルトの量子条件

既に述べたように、1次元調和振動子は、エルミート多項式を導入すれば、
シュレーディンガー方程式を厳密に解くことが出来る。
しかし、高等学校の原子物理(前期量子論)の知識に、
学部初年度~2年次程度の力学の知識を加えた範疇でも、
調和振動子の第n励起状態のエネルギー固有値Enを計算することはできる。
但し、その場合、シュレーディンガー方程式を解いた場合の結果とは異なってくる。
ここでは、古典論と量子論の両者における計算結果を比較する。

まず、ボーアの量子条件:
2πrnλ (n=1, 2, 3, …)
mv・2πrnh (∵pmvh/λ
mvrn (∵h/2π
を拡張したボーア・ゾンマーフェルトの量子条件を考える。
「ボーアの量子条件」(或いは、「ボーアの量子化条件」とも呼ばれる)は、
電子の軌道を等速円運動とみなした場合にのみ適用されるが、「ボーア・ゾンマーフェルトの量子条件」
(或いは、「ボーア・ゾンマーフェルトの量子化条件」とも呼ばれる)は、これを一般化して、
楕円軌道の場合にも適用したものである。横軸を位置x、縦軸を運動量pとした座標系を
「位相空間(phase space)」、或いは、数学における「位相空間(topological space)」と区別して、
「相空間」と呼び、時間経過によって、描かれる軌跡を「軌道」、或いは、「トラジェクトリー(trajectory)」等と呼ぶ。

1次元の調和振動子のエネルギーの式を変形し、

とすると、位相空間上での軌道は、摩擦力等の抵抗を考えていない「保存系」では、
楕円になる(「散逸系」では、中心に向かって落ちてゆく)。
楕円によって囲まれた面積Sは、楕円の長径をa、短径をbとすると、
Sπabであるから、ボーア・ゾンマーフェルトの量子条件より、

と計算できるが、このとき、シュレーディンガー方程式を解いた場合の結果と一致しない。
例えば、n=0のとき、「零点振動エネルギー」は、
古典論(ボーア・ゾンマーフェルトの量子条件)では、E0=0となるが、
量子論(シュレーディンガー方程式を解いた場合)では、E0ω/2となって、
計算では、全ての励起状態のエネルギー固有値が、古典論と量子論の間で、
シュレーディンガー方程式を解いた場合の「零点振動エネルギー」: E0ω/2の分だけズレてしまうのである。
(そもそ)も、量子力学の始まりは、 「黒体輻射」の記事で述べたように、プランクが、 エネルギーがnhνの様に、
hνの整数倍の飛び飛びの(離散的な)値しか取れないことに気付いたからだが、 エネルギーがnhνの様に
量子化されるのは、調和振動子の特徴である。 つまり、調和振動子は、最初に発見された量子力学的系である。




物理量と演算子

では、何故古典論と量子論の間で、エネルギー固有値がω/2だけズレてしまうのだろうか。
先に結論から述べると、古典系での物理量は、量子力学においては、物理量演算子となり、
「乗法に対して非可換」、即ち、「積の交換法則が成立しない」為、古典力学では式が展開された際に、
相殺されて0となっていた項の影響が無視できなくなり、「交換関係(commutation relation)」、
或いは、「不確定性関係(uncertainty relation)」といった形で、その影響を受けることが原因である。

古典系での物理量とそれらに対する物理量演算子に関しては、
講談社の量子力学のテキストに表としてまとめられていたので、
これを引用してHTML上に再現したものを以下に示す。

物理量 古典系での物理量 物理量演算子
位置 x
運動量 pmv
運動エネルギー
ポテンシャル
エネルギー
V(x)
全エネルギー
時間 t
エネルギー E

演算子とそれに対応する古典的な物理量を区別して書きたいときは、
演算子に記号「^(ハット記号、或いは、サーカムフレックス)」を付けるという習慣がある。
但し、付けなくても混乱が生じない時には省略されることが多い。




交換関係

さて、量子力学の演算子は「乗法に対して非可換」、
即ち、「積の交換法則が成り立たない」、と述べた。
それでは、例えば、ある関数f(x)に対して、
xを掛けてからxで偏微分した場合と、
xで偏微分してからxを掛けた場合では、
演算の順序によって、結果にどのような差が生じるであろうか。
ここは、前者から後者を引いて、文字通りその「差」をとってみよう。すると、

となる。このように演算子の積の順序を逆にして差をとった関係を
「交換関係(commutation relation)」と呼び、特にその左辺を
「交換子(commutator)」、その大括弧[]を交換括弧と呼ぶ。
または、「ポアソン括弧」と呼ぶこともあるが、これは、
解析力学の「ポアソン括弧(Poisson bracket)」に対応しているからである。

一方、演算子の積の順序を逆にして「和」をとった関係を
「反交換関係(anticommutation relation)」と呼び、特にその左辺を
「反交換子(anticommutator)」、その中括弧{}を反交換括弧と呼ぶ。
反交換関係はフェルミ粒子などを扱う際に用いられる。
交換関係と反交換関係、及び、交換子と反交換子をまとめると、

となるが、紛らわしいことにWikipediaや解析力学のテキストでは、
ポアソン括弧が中括弧{}で書かれており、
反交換関係に対応しているかのように見受けられるが、
実際に、ポアソン括弧と対応しているのは、
交換関係の方であることに注意する必要がある。

次に、この関数f(x)を波動関数ψ(x, t)として、
位置演算子と運動量演算子に対して、
上記と同様に「差」をとってみよう。
このとき、運動量演算子が波動関数ψ(x, t)を
位置xで偏微分することの-i倍であることを鑑みれば、

という関係式が導かれる。この位置演算子と運動量演算子の交換関係を
特に「正準交換関係(canonical commutation relation)」と呼ぶ。

位置演算子と運動量演算子以外でも、交換関係が0にならない例として、
エネルギー演算子と時間演算子の場合がある。実際、エネルギー演算子が
波動関数ψ(x, t)を時間tで偏微分することの i倍であることを鑑みれば、

と計算することが出来て、やはり交換関係が0にはならない。

交換関係が0である演算子が表す物理量同士は、乗算の際、
互いに交換が可能で、両方の値を同時に確定することが出来るが、
交換関係が0でない演算子が表す物理量同士、例えば、
「位置x(L[m])」と「運動量p(LMT-1[kg・m/s])」、
「エネルギーE(L2MT-2[kg・m2/s2])」と「時間t(T[s])」、
「角運動量(L2MT-1[kg・m2/s])」と「角度(無次元量)」
のように、両者の次元同士の積が、「作用(L2MT-1[kg・m2/s])」
の次元(プランク定数hやディラック定数もこの次元)となる
相補的な物理量同士は、両方の値を同時に確定することは出来ない。




生成演算子と消滅演算子

調和振動子の全エネルギーは、位置と運動量に対して、「二乗の和」の形式をとる。
「二乗の差」の因数分解は、「和と差の積は二乗の差」であるから、
a2b2=(ab)(ab)
の様に因数分解できるが、これに対して、複素数を適用すれば、
a2b2=(aib)(aib)
の様に、「二乗の和」も和と差の積に分解できるようになる。
これを用いた手法として、ディラックによる調和振動子の演算子解法があり、
実際に、調和振動子の全エネルギーを因数分解すると、

となって、複素数の和と差の積に分解される。

次に、複素数の和と差の積に関して、前者を演算子化して、aに記号^を付けたものを
「消滅演算子(annihilation operator)」、或いは、「下降演算子」、後者を演算子化して、
aに記号^を付けたものを「生成演算子(creation operator)」、或いは、「上昇演算子」と呼び、

の様に定義する。テキストによっては、位置演算子と運動量演算子のどちらの係数を
シンプルにするかという点で、定義の流儀が分かれるようだが、ここでは、両者を併記した。
これらの式を逆に解けば、位置演算子と運動量演算子に関して、生成演算子と消滅演算子を用いて、

の様に表すことも出来る。




ディラックによる調和振動子の演算子解法

ところで、消滅演算子に左から生成演算子を作用させると、

の様に計算することが出来る(この計算を以降「解法1」と呼ぶことにする)。
※演算子解法は、テキストによって、解法が少しずつ異なるが、
エネルギー固有値の計算に関しては、この「解法1」が、
最も単純にして簡潔であると思われる。

ここで、消滅演算子に左から生成演算子を作用させたものを
「数演算子」、或いは、「個数演算子」と呼び、Nに記号^を付けて表す。
数演算子は、調和振動子の第n励起状態を表す変数nと殆ど同義である。
要するに、本節の最初に「二乗の和」を複素数の和と差の積に因数分解した後、
生成演算子と消滅演算子を定義する際に演算子化した状態で、
因数分解した式を逆演算して、再び式を展開していることになる。

このとき、演算子化する前は、「乗法に対して可換」であり、
積の交換法則が成り立って、項が相殺されて0になっていた箇所が、
演算子化した後は、「乗法に対して非可換」となって、
積の交換法則が成り立たなくなり、「正準交換関係」がiとなる。
この箇所こそが、全ての励起状態のエネルギー固有値を計算した際、
古典論と量子論の間で、シュレーディンガー方程式を解いた場合の「零点振動エネルギー」:
E0ω/2 の分だけズレてしまう原因に他ならない。

テキストによっては、他にも少し異なる解法が載っていることがあるので、ここでは別解として示す。
まず、位置演算子と運動量演算子の交換関係を用いて、以下の「消滅演算子と生成演算子の交換関係」を計算しておく。

因みに、交換関係は、順序を逆にすると符号が負になり、同一の演算子間の交換関係は0になる。

位置演算子と運動量演算子を生成演算子と消滅演算子で表したものを既に求めてあるので、
これらを二乗して、「位置の二乗」演算子と、「運動量の二乗」演算子を計算し、
ハミルトニアン演算子に代入した後、先程計算しておいた「消滅演算子と生成演算子の交換関係」を代入すると、

という先程の「解法1」と同様の計算結果を得る(この計算を以降「解法2」と呼ぶことにする)。

他にも、ハミルトニアン演算子の分母を8mにして、分子を消滅演算子と生成演算子の
「差の2乗」や「和の2乗」に分解して代入し、「消滅演算子と生成演算子の交換関係」を
代入する以下の解法(この計算を以降「解法3」と呼ぶことにする)が載っているテキストもある。

但し、最後の「消滅演算子と生成演算子の交換関係」を代入する数行は、「解法2」も「解法3」も共通である。
※この「解法3」は、かなり技巧的な解法という印象を受ける。

ここまでエネルギー固有値Enを計算してきたが、 今度は波動関数の固有関数ψn(x)を計算する。
ここで、調和振動子のシュレーディンガー方程式を無次元化する際に、定義した変数ξを再登場させる。
まず、生成演算子と消滅演算子を変数ξを用いて書き換えると、

となる。また、準備として、「ガンマ関数の応用」の記事で計算した「ガウス積分」:

を示しておく。基底状態(ground state)の波動関数の固有関数ψ0(x)に
消滅演算子を作用させれば、真空となることを鑑みると、

の様に基底状態の波動関数の固有関数ψ0(x)を計算することが出来る。
これは、エルミートの直交性から計算した波動関数の固有関数ψn(x)に対して
n=0とし、20=1、0!=1、及び、エルミート多項式 H0(ξ)=1を代入したものと一致する。




不確定性

ある物理量Aに対して、その演算子には記号^を付けて、Âで表す。
また、その物理量の期待値(expectation value)は、<A>で表し、
<A> ≡ ∫ ψ*(x) Â ψ(x) dx
の様に定義する。ここで、両者の差を「不確かさ」、或いは、
「不確定性(uncertainty)」等と呼び、ΔÂで表し、
ΔÂÂ - <A>
の様に定義する。これらは、定義式としては、
統計解析に(なぞら)えると、 期待値<A>は「平均値(mean)Ā」、
不確かさΔÂは「偏差(deviation)」と同じであり、
実験の誤差論に(なぞら)えると、 期待値<A>は「最確値(most probable value)Ā」、
不確かさΔÂは「残差(residual)」と同じである。

続いて、統計解析、或いは、実験の誤差論における、「分散(variance)」に相当するものを計算すると、
ψ*(x) (ΔÂ)2 ψ(x) dx = ∫ ψ*(x) (Â - <A>)2 ψ(x) dx
= ∫ ψ*(x) Â 2ψ(x) dx - 2<A> ∫ ψ*(x)Â ψ(x) dx + <A>2ψ*(x) ψ(x) dx
= <A2> - 2<A><A> + <A>2 = <A2>-<A>2
となって、「分散は、『二乗の平均』から『平均の二乗』を引いたものに等しい。」ことが分かる。
しかし、このままでは元のデータと次元が異なってしまうので、その(正の)平方根をとって、
ΔA ≡ √(<A2>-<A>2)
とし、この「標準偏差(standard deviation)」に相当するものをΔAで表す。
※「偏差」・「残差」に相当する方がΔÂ、 「標準偏差」に相当する方がΔAで、ここでは、記号^の有無で区別している。
かつては、これを「測定誤差」と呼んでいた(現在でもそのように記載している文献もある)が、
交換関係が0でない演算子が表す物理量同士が両方の値を同時に確定出来ないことは、
量子の本質的な性質によるものであって、測定の精度によるものではないことから、
1993年以降は、このΔAを「不確かさ」、或いは、「不確定性(uncertainty)」等と呼んでいる。




不確定性関係

ここで、演算子解法の節の最後に計算した、基底状態の波動関数の固有関数ψ0(x)に対して、
先程の物理量の「期待値」と「不確定性」の定義を用いて、
位置演算子と、運動量演算子、及び、「位置の二乗」演算子と、「運動量の二乗」演算子の
期待値から、位置の不確定性と、運動量の不確定性を計算すると、

と計算でき、「不確定性関係(uncertainty relation)」を示すことができる。
このとき、「不確定性関係」は、厳密には「=」ではなく、「≥」であるが、
上記の計算は、基底状態の波動関数に対しているため、
その最小値が現れていることを意味している。
※「位置の二乗」演算子と、「運動量の二乗」演算子に関しては、
演算子解法の「解法2」の係数がそのまま現れていることが分かる。

では、「=」ではなく、「≥」が成立する、 厳密な「不確定性関係」を導くにはどうしたらよいのだろうか。
まず、任意の実数をλ と置く。 書籍によっては、この任意の実数にαξ が用いられていることもある。
次に、この任意の実数λ を用いて、 関数u(x)及び、積分I(λ)を定義し、
このとき、積分I(λ)が、λ の二次関数になることより、 これが0以上となる判別式Dの条件から
「不確定性関係」を導出する、という計算を以下に示す。

さらに、この「位置」と「運動量」に関する不確定性関係の不等式を
単に「不確定性関係」と呼んでいる書籍も多いが、
厳密に言えば、「ケナードの不等式」と呼ぶのが正しい。
何故なら、後述するように、「位置」と「運動量」に限らず、
より一般的な二つの物理量に関して成立する「不確定性関係」の不等式が存在するからである。
また、「不確定性関係」は、「不確定性原理(uncertainty principle)」と呼ばれることもあるが、
上記の様に他から導かれるという意味では「原理」の資格はない。

続いて、前述のより一般的な二つの物理量ABに関して成立する「不確定性関係」の不等式を導く。
先程と同様に、任意の実数λ を用いて、 関数f (x)及び、積分I(λ)を定義し、 積分I(λ)が、λ の二次関数になることより、
これが0以上となる判別式Dの条件から「不確定性関係」を導出する。その計算を以下に示す。

このより一般的な二つの物理量ABに関して成立する不確定性関係の不等式は、
「ロバートソンの不等式」と呼ばれている。

この「ロバートソンの不等式」に、「正準交換関係(canonical commutation relation)」を適用すれば、
「ケナードの不等式」が示されるし、「エネルギー」と「時間」に関する交換関係の式を適用すれば、
「エネルギー」と「時間」に関する不確定性関係の不等式が示される。




相加平均と相乗平均の関係

不確定性関係は不等式で表された。ここで、不等式に関して、
次の説明のための準備として、「相加平均と相乗平均の関係」の導出課程を以下に示す。

この「相加平均と相乗平均の関係」を用いると、
調和振動子の「零点振動エネルギー」が極めて簡単に導出できる(後述)。




零点振動エネルギー

最初に、調和振動子のシュレーディンガー方程式から、
調和振動子のエネルギー固有値と固有関数を計算した。
そして、先程、その基底状態の波動関数の固有関数ψ0(x)に対して、
「期待値」と「不確定性」の定義を用いて、不確定性関係を導出した。
今度は逆に、不確定性関係を既知として、
調和振動子の零点振動エネルギーを導出する。その計算を以下に示す。

調和振動子のエネルギーは、「相空間」上で運動エネルギーと
弾性力による位置エネルギーの和で表されるが、
ここで、「位置」と「運動量」が「不確定性」を持つとき、
「相加平均と相乗平均の関係」と、「ケナードの不等式」を適用すれば、
このように、調和振動子の「零点振動エネルギー」が数行で導出できるのである。




参考文献

  1. 「虚数の情緒―中学生からの全方位独学法」(東海大学出版会、2000年)
    ※エネルギー固有値の演算子解法は、「解法2」が用いられている。
  2. 「裳華房テキストシリーズ - 物理学 量子力学」(裳華房、2007年)
    ※調和振動子のシュレーディンガー方程式の無次元化の際、 z=√(mω/)x
    ※不確定性関係の導出の際、任意の実数は、α が用いられている。
  3. 「講談社基礎物理学シリーズ 6 量子力学」(講談社、2009年)
    ※エネルギー固有値の演算子解法は、「解法1」が用いられている。
    ※不確定性関係の導出の際、任意の実数は、λ が用いられている。
  4. 「32ページの量子力学入門」(暗黒通信団、2010年)
    ※演算子に記号^が付いていないだけで、エネルギー固有値の
    演算子解法そのものは「解法3」と同じである。
  5. 「趣味で量子力学」(理工図書、2015年)
    ※不確定性の定義にて、「偏差」・「残差」に相当する方を▲A
    「標準偏差」に相当する方をΔAで区別している。
    ※不確定性関係の導出の際、任意の実数は、λ が用いられている。
  6. 「量子力学 キャンパス・ゼミ」(マセマ、2015年)
    ※エネルギー固有値の演算子解法は、「解法3」が用いられている。
    ※不確定性関係の導出の際、任意の実数は、ξ が用いられている。



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