「流体力学の運動方程式」の記事があまりにも長くなったので、
その続編として、分離・独立する形で作成。
ここでも、初学者を対象とする為、厳密な区別をせず、説明も厳密性を重視しない。
但し、説明の順序は、断片的知識の丸暗記にはならないように多少工夫したつもりである。
しかし、筆者は、物理学が専門であり、機械工学は専門外の門外漢であるため、
ここに書いている内容は独学であり、個人的な備忘録に近いものなので、極力追記はするが、
全体像を網羅しているわけでもないから、あまり鵜呑みにしすぎない方が良いかも知れない。
無次元化されたナビエ・ストークス方程式の
右辺第2項にのみ現れたパラメータに関して、
慣性力(分子)と粘性力(分母)の比:
VL | ρVL | 慣性力 | |||
Re ≡ | = | = | |||
ν | μ | 粘性力 |
レイノルズ数の名前の由来である、レイノルズが行った実験(1883年)によると、
レイノルズ数がRe=50程度のときは、流れは円柱に沿って流れ、
レイノルズ数がRe=70程度になると、流れは円柱から剥がれる。
このように、物体表面の形状が急に曲がっている場合は、
急に向きを変えることができず、流れが物体表面から剥がれてしまう。
この現象を「
また、その際、円柱の背後には、左右対称の一対の渦ができる。
これを「双子渦(twin vortex)」と呼ぶ。
さらに、レイノルズ数がRe=140以上になると、
円柱背後の渦は、左右対称だった渦が、
左右交互に放出されるようになり、
渦が互い違いに並んだ列ができる。
この渦のことを「カルマン渦(Karman vortex)」と呼び、
渦列のことを「カルマン渦列(Karman vortex street)」、
1組の渦を「渦対(vorterx pair)」と呼ぶ。
また、レイノルズ数が2320を超えると層流が乱流に遷移し、
このときのレイノルズ数を「臨界レイノルズ数(critical Reynolds number)」
Recと呼ぶ。
物体の背後に出来る
「カルマン渦列」は、「層流」の状態で発生する。
乱流か層流かを判別するのは、ミクロな速度変動の有無による。
乱流とはミクロな速度変動がある流れであり、ミクロな速度変動によって、
肉眼でも見えるくらいのもっと大きな様々な規模の乱れが発生する。
典型的なカルマン渦列は、周期的に流れが変動するものの、
一定の時間感覚で規則正しく渦が発生し、
ミクロな速度変動が含まれない典型的な層流である。
カルマン渦列の特徴は、
|
共振の例としては、ブランコを揺れの周期と同じ時間感覚で
押していくと、たとえ1回ずつの力が小さくても
どんどん振幅が大きくなるという現象が挙げられる。
また、一休
動かした話があるが、これも共振を応用した例である。
参考文献「図解雑学 流体力学」によると、初代タコマ橋の崩落は
共振した結果が原因であるという。タコマ橋は、正式には
「タコマナローズ橋(Tacoma Narrows Bridge)」と言い、1940年7月に開通した
初代タコマ橋は、わずか4カ月後の1940年11月7日、振動により崩落した。
ブランコの周期と同じ時間感覚で周期的に押すと、一回一回の力が小さくても、
同期して振幅は次第に大きくなるのと同様に、渦発生周期と振動の周期が一致する
現象を「フラッター」といい、大事故を引き起こす可能性がある危険な現象である。
しかし、Wikipedia等によると、強風は振動の周波数が安定しておらず、
共振現象が発生しそうにないことから、上記の説のように
風のように不安定な物理現象で共振が発生することは考えづらいため、
現在では自励振動が発生した結果、崩落したと考える説が主流である。
自励振動系の代表例としては、「ファン・デル・ポール振動子」がある。
「ファン・デル・ポール方程式のシミュレーション」の記事も参照。
乱流には複雑な乱れが生じ、小さな渦が発生する。
層流には粘性による
乱流には粘性による
乱れによる
呼ばれるのに対し、後者は「レイノルズ応力」とも呼ばれる。
乱流の平均
τ=τm+τt
で表すことが出来る。
粘性応力τmは、ニュートンの粘性法則:
du | |
τm=μ | |
dy |
du | |
τt=η | |
dy |
また、粘度
分子粘度(molecular viscosity)と呼び、さらに動粘度
分子動粘度(molecular kinematic viscosity)とも呼ぶ。
分子粘度
表記されるように、渦粘度
η | |
ε= | |
ρ |
du | |
τ=(μ+η) | |
dy |
流体には粘性があり、速く変形させようとすると、
変形しまいとする抵抗として作用するため、
流れの中に置かれた物体の表面に接した
流体粒子は表面上をすべることができず、
物体と同じく静止したままとなる。
一方、物体からある程度離れたところでは流れがあり、
この流れと物体表面との間では急激な速度の変化が
起こっている。ここでは
流体の
粘性力も大きく作用し、粘性の影響が強く表れる領域である。
粘性が働く場合、物体の表面の
一方、物体から非常に離れたところでは
物体表面から来る粘性の影響は及ばない。
粘性が大きくなければ、物体のすぐ傍以外では完全流体のように流れるだろう。
では、その粘性の影響はどれくらいの範囲まで及ぶのだろうか。
物体のまわりに流体が流れると、速度が急に変わるという層が形成される。
このとき、粘性の影響の及ぶ円柱などの物体表面近くのすぐ傍の領域の
速度勾配の大きな層は、「境界層(boundary layer)」と呼ばれる。境界層の特徴として、
|
レイノルズ数Reが小さな流れでは、壁面近くの境界層内の流体は
層状をなして、運動しており、この境界層を「層流境界層」と呼ぶ。
一方、レイノルズ数Reが大きな流れでも、
この層流境界層の厚さが増大した点から後ろにおいては、
層内の流体粒子の運動は不安定(遷移領域)となり、下流に至ると不規則となる。
この下流の境界層を「乱流境界層」と呼ぶ。但し、円柱の表面にごく近い領域は、
粘性作用のために速度が小さいので、乱流境界層であっても層流となる。
この乱流境界層内の壁面近傍の薄い層を「層流底層(laminar sublayer)」と呼ぶ。
層流境界層の方が抵抗は小さいが、
また、いったん
後方に渦が形成されてしまうため、抵抗が一気に増える。
一方、乱流境界層は、少々抵抗は大きいけれども
層流境界層でも乱流境界層でも
直感的には、乱流の方が早く
円柱の場合、層流境界層の
乱流境界層の
物体に作用する「流体力(fluid force)」には、大きく分けて2つあり、
流れの方向に作用する流体力を「抗力(drag force)」と呼んで、
FDやDで表し、
流れに対して垂直に作用する流体力を「揚力(lift force)」と呼んで、
FLやLで表す。
抗力と揚力は次の式で表される。
1 | ρ V2 | |||
抗力:FD= | CD ρ V2 S = CD | S =(抗力係数)×(動圧)×(投影面積) | ||
2 | 2 |
1 | ρ V2 | |||
揚力:FL= | CL ρ V2 S = CL | S =(揚力係数)×(動圧)×(投影面積) | ||
2 | 2 |
ρは、流体の密度であり、式から、抗力も揚力も流体の密度に比例することがわかる。
Vは平均速度(流速)であり、Sは基準面積と呼ばれ、通常は前方から見た投影面積が用いられる。
投影面積とは、物体を真正面から見たときの面積であり、前方から光を当てたときに、
物体の後ろにできる影の面積が投影面積ということになる。
※文献によっては、基準面積がS、投影面積がAの様に、表記に揺れがあった。
前者は「Surface」の頭文字、後者は「Area」の頭文字に由来すると思われる。
ボールを投げたり、自転車で走ったりするときに、空気抵抗が働く。
これは空気から物体に運動と逆方向に働く力であり、ブレーキとして作用する。
また、台風のときに風から受ける力のように、
物体が運動していなくても風が当たると同じように空気抵抗が働く。
何故なら、移動する物体に乗って周囲を観察すれば、
前方から流体が流れてきているのと同じであり、
相対的な速度で考えれば同一の現象となるからである。
以上のように、空気抵抗は物体が運動していても、
静止した物体に流れが当たっていても働くもので、
物体と流体との相対速度(両者の速度の差)によって決まる。
このように、流れの下流方向に働く抵抗を「抗力」、
或いは、「流体抗力」、「流体抵抗」などという。
抗力が発生する原因は主に二つに分けられる。一般に流れの前面側では圧力が高くなり、
背後側では圧力が低くなるため、物体前後の圧力差から抗力が発生する。
一つ目は、この物体前後の圧力差による「圧力抗力(pressure drag force)」または
物体の形に依存するので「形状抗力(profile drag force)」と呼ばれるもので、
ほぼ速度の2乗に比例するという性質を持つ。
二つ目は、物体表面と流体との間で
起こる粘性摩擦によるもので、
物体表面の各部では、粘性によって
流れの下流方向に引きずられるように摩擦力が働き、
それらの合力として抗力が発生する。
この成分は「摩擦抗力(friction drag force)」と呼ばれ、
ほぼ速度に比例するという性質を持つ。
また、圧力抗力と摩擦抗力を加えたものを
「全抗力(total drag force)」とも呼ぶ。
※摩擦抗力は「粘性抵抗」、圧力抗力は「慣性抵抗」とも呼ばれる。
他にも、「誘導抗力」、「造波抗力」、「干渉抗力」等がある。
多くの場合、圧力抗力が摩擦抗力に比べて非常に大きくなり、
一般に、抗力は圧力抗力と摩擦抗力の合計となるが、
殆どの場合で圧力抗力の占める割合が大きくなり、
抗力全体としてもほぼ速度の2乗に比例する。
しかし例外的に、速度が非常に小さい場合
(レイノルズ数が非常に小さく粘性の影響が強い流れの場合)、
圧力抗力は大きくならず、摩擦抗力の占める割合が大きくなり、
抗力はほぼ速度に比例する。
飛行機の主翼に「スポイラー」という装置があるが、
これも抗力を積極的に利用した例の一つで、
着陸時に機体を速く降下させたい場合など、
スポイラーを立ち上げて空気抵抗を大きくすることによって
飛行機を減速させ、降下を早めることが出来る。
競泳用の水着の表面に細かい突起を付けたものが
「鮫肌水着」は、表面に鮫肌の様に微小な凸凹があり、
水と水着の間の摩擦抗力を減らすことが出来る。
直感的には、水着表面を凸凹させると摩擦抗力は増大するように感じるが、
微小の凸凹であれば、逆に摩擦抗力は減少する。この鮫肌水着の抵抗が少ないのは、
表面にある突起によって、境界層が乱流境界層になるからである。
※参考文献「図解雑学 流体力学」には、
「サメの肌がわさびをすりおろす道具に使われている」
という記述があるが、実際にはエイの皮が使われている。
乱流は層流に比べて
表面の流体摩擦を大きくし、摩擦抗力が増加するという欠点もある。
一般的には、摩擦抗力よりも圧力抗力がはるかに大きいので、
摩擦抗力については圧力抗力ほど注意を払われていないが、競技用では
100分の1秒を争うので、摩擦抗力についても様々な対策が取られている。
ゴルフボールの表面に付いている小さな凹凸「ディンプル」も、
原理的には鮫肌水着の場合と同じで、乱流境界層の性質を利用したものである。
ゴルフボールのディンプルは、表面の流れを層流から乱流にすることにより
抗力が小さくなるという現象を応用したもので、
手で持つときに滑らないようにするためではなく、
空気抵抗を減らして飛距離を稼ぐために凹凸をつけているのである。
もしディンプルがなければ流れはすぐに
ボールはあまり飛ばない上に、後ろにできる渦などの
流れの影響でボールが曲がってしまうだろう。
ゴルフボールの表面に存在するディンプルは、
わざとゴルフボールの表面上に渦を発生させ、
ゴルフボールのまわりの流れを乱流にし、
境界層の
表面の流れが乱流になると、その乱流のおかげで
ゴルフボールの後方に移動することで、乱流境界層では、
物体後方の渦が小さくなり、抵抗も小さくなるのである。
他にも、乱流境界層を利用している例として、
飛行機の主翼の上面に小さな金具がたくさん飛び出している、
「ボルテックスジェネレータ」と呼ばれるものがある。
これは境界層を乱流化し、乱流境界層へ遷移させる役割を持つ。
層流境界層の場合、飛行中に突然風の向きが変わると、
条件によっては流れが
飛行機は揚力を失って一気に失速してしまうので、
そのような危険を避けるため、乱流境界層を利用しているのである。
※参考文献「道具としての流体力学」では、
「ボルテックスジェネレータ」表記だが、
日本語におけるカタカナ表記としては
「ヴォルテックスジェネレータ」(Wikipedia)や、
「ボルテックスジェネレーター」、
「ヴォーテックス(ボーテックス)ジェネレーター」
等もある。日本語では「渦流生成器(かりゅうせいせいき)」、
「渦発生器(うずはっせいき)」などと呼称される。
「同じ大きさで重さの異なる二つの球を同時に同じ高さから落としたとき、
速く床に落ちるのはどちらの球か。」、「同じ重さで大きさの異なる二つの球を
同時に同じ高さから落としたとき、速く床に落ちるのはどちらの球か。」
という問題に、「重くても軽くても落ちる速さは同じ」、
「大きさが異なっても落ちる速さは同じ」と習った内容は正しい。
但し、いずれの場合も「空気抵抗を無視すれば」という条件が付いている。
物体がある程度重い場合、空気抵抗よりも重力の方がずっと大きいため
空気抵抗の影響はわずかとなり、重さによる差は殆どなくなるが、
軽いものでは重力と空気抵抗の大きさの差が小さく、
空気抵抗によるブレーキは無視できなくなって、
落下速度が遅くなるため、「重い方が速く落ちる」。
また、「同じ重さであれば小さい球の方が速く落ちる」。
これは「基準面積」が小さい方が空気抵抗が小さくなり、
ブレーキが弱くなるからである。
落下運動と空気抵抗の間には関係がある。そこで、ここでは
空気抵抗の影響を受ける落下運動の例として、雨滴について考えよう。
雨滴が落下を始めると重力の影響で次第に加速していくが、
同時に空気抵抗もおよそ速度の2乗に比例して大きくなっていく。
やがて重力と空気抵抗が同じ大きさになると
両者の力がつり合い、それ以上加速しなくなる。
このときの速度を「終端速度(terminal velocity)」
といい、それ以降はこの速度で落下していく。
また先程の結果から、終端速度は雨滴の大きさによって変わることもわかる。
小さな雨滴では「基準面積」が小さい分だけ空気抵抗が小さくなるが、
それ以上に雨滴に働く重力が小さくなるので、結果として
空気抵抗の影響が大きくなり、落下速度が小さくなる。実際の雨でも、
大きな雨滴は落下速度が大きいが、細かい霧雨上の雨滴は
まずは簡単に、高校物理の力学の範囲で計算してみることにしよう。
ここでは、雨滴の質量をm、加速度をa、重力加速度をgとする。
最初に、空気抵抗を無視できる場合は、鉛直下向きを正とすると、運動方程式は、
ma=mg
であり、a=gなので、自由落下となる。
次に、空気抵抗が速度に比例する粘性抵抗の場合、
空気抵抗をkvとして計算すると、運動方程式は、
ma=mg-kv
となる。一定時間経過後、左辺が力のつり合いによって、ma=0となったとき、
t→∞において、v→v∞とすると、これが終端速度となるので、
mg=kv∞
⇔v∞=mg/k
より、終端速度:v∞=mg/kを得る。
続いて、空気抵抗が速度の2乗に比例する慣性抵抗の場合、
空気抵抗をkv2として計算すると、運動方程式は、
ma=mg-kv2
となる。一定時間経過後、左辺が力のつり合いによって、ma=0となったとき、
t→∞において、v→v∞とすると、これが終端速度となるので、
mg=kv∞2
⇔v∞=√(mg/k)
より、終端速度:v∞=√(mg/k)を得る。
定常流のナビエ・ストークス方程式は、慣性力を無視出来て、仮に外力Fも無視すると、
grad p=μ∇2v
となり、圧力項と粘性項が等しくなる。また、水中や空気中などの流体中を
ゆっくりと落下する球状の物体に働く重力mgと粘性抵抗kvがつり合って、
一定速度vで落下している場合、流速が十分遅いとして、速度の2次の項を無視する。
これを「ストークス近似(Stokes aproximation)」という。
遅い流れに置かれた球状粒子が受ける抵抗は、流速をv、球の半径(radius)をr、及び、
粘度、或いは、粘性係数を
FD=6πμrv
と表される。或いは、文献によっては、球の直径(diameter)をDとすると、
勿論、D=2rが成り立つので、
FD=3πμDv
の様に表記されている場合もある。これは、1851年にアイルランドの物理学者
ストークスによって導かれたもので、「ストークスの抵抗法則」と呼ばれる。
また、特に左辺の全抗力FDをストークス抗力(Stokes drag force)と呼ぶ。
先程の雨滴を球状粒子とみなして、空気抵抗が速度に比例する
粘性抵抗の場合の空気抵抗をFD=6πμrv
として計算すると、運動方程式は、
ma=mg-6πμrv
となる。一定時間経過後、左辺が力のつり合いによって、ma=0となったとき、
t→∞において、v→v∞とすると、これが終端速度となるので、
mg=6πμrv∞
⇔v∞=mg/6πμr
を得る。ここで、雨滴の質量(mass)をmで表しているが、その密度(density)をρとし、
雨滴の密度ρ>>空気の密度なので、空気の密度を無視出来るとすれば、
m=ρ×(4/3)πr3
で表されるので、これを代入すると、終端速度v∞は、
v∞
=ρ×(4/3)πr3g/6πμr
=2ρgr2/9μ
となり、r2に比例することが分かる。また、ここでは、雨滴の半径(radius)をrで
表しているが、その直径(diameter)をDとすると、勿論、D=2rが成り立つので、
v∞
=ρgD2/18μ
と表すことも出来る。
一方、動圧:ρv2/2に比例する方の抗力の式は、基準面積(投影面積):
S=πr2=πD2/4より、
FD=CD×(ρv2/2)×S
=CD×(ρv2/2)×(πr2)
=CD×(ρv2/2)×(πD2/4)
と変形出来る。これをストークス抗力の式:
FD=6πμrv
=3πμDv
と比較して、抗力係数CDを求めると、
CD
×(ρv2/2)
×(πD2/4)
=3πμDv
⇔CD=24πμDv/
(ρv2πD2)
=24μ/ρvD
となる。ここで、レイノルズ数:Re=ρVL/μにおいても、
代表長さLを雨滴の直径Dとすると、
代表速度:V=v、代表長さ:L=Dを代入して、
レイノルズ数:Re=ρvD/μとなるから、
抗力係数CDは、CD=24/Reとなる。
また、ストークス近似以外には、オセーン(Oseen)近似もあり、
その場合における、オセーンの式:
24 | 3 | |||
CD= | (1+ | Re+…) | ||
Re | 16 |
ストークスの抵抗法則は、1909年に行った電子の電荷(素電荷・電気素量)を測定するための実験である、
ミリカンの油滴実験に応用された。絶縁された2枚の水平な金属板上で、油滴を霧吹きによって作り、
板の中央に開けた小穴を通して落下させる。金属板間に電圧が掛かっていないとき、油滴は、
mg=6πμrvg
で決まる速度vgで落下する。また、強さEの電場により上向きの力が掛かっているとき、油滴は、
eE-mg=6πμrvE
で決まる速度vEで上昇する。両式の辺々を加え合わせることにより、油滴の電荷eは、
e=6πμr(vE+vg)/E
で求められる。この実験により、ミリカンは電気素量eとして、
1.592×10-19[
「揚力」とは、流れに垂直な方向に働く力であり、
揚力の発生を目的としたものを「
飛行機は主翼に働く揚力によって空中を飛行できる。
「揚」は「上に揚げる」という意味であるが、流体力学における揚力は
必ずしも上向きの力ではなく、流れに垂直な力をさしている。
例えば、レーシングカーが空気から受ける
「ダウンフォース」という下向きの力も揚力の一種である。
また、流れの中で回転する物体に揚力が働く作用をドイツの科学者
ハインリヒ・グスタフ・マグヌスに
※日本語では、「マグナス」「マグヌス」等の表記揺れがあるが、「マグナス」は、英語読みであり、
ドイツ語の発音としては、「マグヌス」が正しいので、ここでは、以降「マグヌス効果」表記を用いる。
※ディンプルは、物体の臨界レイノルズ数を下げ、より低い速度で乱流が発生する。
乱流は気流の物体表面からの
ディンプルはある範囲の速度でマグヌス効果を増幅させる。
マグヌス効果とは関係ないが、同時に、抗力を抑える効果もある(Wikipedia)。
ボールの代表的な回転の一つである「バックスピン」は、
ボールの下側の回転方向が飛行方向と同じになる回転である。
この場合、上側ではボールの回転方向と流れの方向が同じになり、
流れの速度が大きくなる。その結果、ベルヌーイの定理により、
流体の運動エネルギーが増加するので、圧力のエネルギーは減少し、
圧力が小さくなる。一方、ボールの下側ではこの逆で、
ボールの回転方向と流れの方向が逆であるため、
流れの速度は小さくなり、圧力が大きくなる。
ボールの上下で圧力差が生じ、ボールには上向きの揚力が働く。
このことは飛距離を伸ばす場合に有効である。
ボールの回転がバックスピンと逆の場合である「トップスピン」は、
ボールの下側の回転方向が飛行方向と同じになる回転である。
バックスピンと上下が逆になり、下向きの揚力を得ることになる。
相手コートにボールを落とす種目はトップスピンを積極的に利用している。
物体の形状で重要なのは背後側であり、ここで
流れを少しずつ拡大するため、物体を少しずつ細くしていくことが重要になる。
それを実現すると背後側が尖った形、いわゆる「流線形」に行き着く。
流線形は抗力の小さな理想的な形状で、魚の胴体、
飛行機の機体、主翼の断面などが流線形になっている。
飛行機は主翼に揚力を受けることによって空を飛ぶことができる。
飛行機は他の乗り物に比べてたいへん速いので、
まず抗力を小さくしておく必要があるため、
ボディ全体も流線形にして、圧力抗力を小さく抑えておく。
同様に主翼もまた流線形(前方側が丸く、後方側が尖った形)にする必要がある。
主翼はさらに揚力を発生させるという大切な役目があり、「そり」と呼ばれる
湾曲をつけているのが特徴である。この湾曲に揚力発生の秘密がある。
また、主翼の取り付け角度も重要で、前方側をやや高く、後方側をやや低くしておく。
つまり、上流側の流れに対して角度をつける。この角度を「迎え角(angle of incidence)」という。
これが揚力発生のための二つ目の秘密である。このような条件を持つ形状を
「
以上をまとめると、
|
飛行機はある一定以上の速度で前進しなければ空を飛ぶことはできない。
そのためにジェットエンジンやプロペラを使って前に推進する必要がある。
そうすると、飛行機に対しては前から風が吹いてくるのと同じ状況になり、
主翼に当たった風は上下に分かれて後方に流れていくことになる。
主翼の下面側の流れは主翼によって下向きに曲げられ、後方に流れていく。
主翼が流れを下向きに押しているから、主翼は逆方向(上向き)に力を受ける。
一方、主翼の上面側の流れは主翼に沿って流れ、
やや下向きに向きを変えて後方側から流出していく。
流体の流れは曲面に沿って曲がるという性質があるからだ。
このときの、「曲面に沿って流れようとする性質」を
「コアンダ効果(Coandă effect)」という。
このとき、主翼は空気を下に引きつける代わりに
自分自身は上に引き上げられている。相手に力を加えると
自分自身は相手から逆方向の力を受ける。
この原理を「作用反作用の原理」という。
飛行機の主翼(
いずれも流れを下向きに変えることによって
上向きの揚力を得ているのである。
翼断面として一般によく挙げられる形状は、前縁(leading edge)が丸く
後縁(trailling edge)が尖った形状をしている。もっとも基本的な、
「ジューコフスキー変換」と呼ばれる等角写像によって
得られる理論的な
複素数z, wが、実数x, y, u, vに対して、
z(x, y)=x+iy (x, y∈ℝ)
w(u, v)=u+iv (u, v∈ℝ)
で定義され、複素数zからwへ変換する複素関数を
w=f(z)とするとき、ジューコフスキー変換は、
a2 | |
w=f(z)=z+ | |
z |
飛行機の翼の原理で有名な間違いに、「翼は湾曲しているので、上面の方が
下面よりも移動距離が長く速く流れるため、ベルヌーイの定理から、
流れの速い上面の圧力が小さく、流れの遅い下面の圧力が大きくなり、
両者の圧力差から揚力が働く」というものがあるが、この説明の間違いは、
翼の上流側で上下で分かれた流れが最後尾の尖った先である、
「後縁」に「同時刻に到着する」という点である。
その必然性はなく、実際には距離の長い上面側の方が速く到着する。
正しくは上面でも下面でも翼に沿って流れが
下向きに曲げられ、空気には下向きの力、
その反作用として翼には上向きの揚力が発生する。
揚力を利用する場面では、身近なところでも
|
扇風機の羽根と同様のものに、換気扇の羽根、
電気機器に内蔵されている冷却用ファン、
飛行機のプロペラ、船のスクリューなどがある。
いずれも揚力を利用して、風や水を送っている。
これらは回転させて使うので、「回転翼」と呼ばれている。
鳥の翼や羽も広げたところを真横から見てみると、
前方側が丸みをおび、全体に湾曲しており、
飛行するときは迎え角がついて揚力を得ている。
F1レーシングカーでは、前輪付近にフロントウイング、
ボディ後部にリアウイングをつけてダウンフォースという、
下向きの揚力を発生させ、走路との設置性をよくしている。
但し、飛行機の主翼とは湾曲の向きが上下逆になっている。
飛行機の様な金属の塊(鉄ではなく、アルミニウムの合金であるジュラルミン製、
最近はカーボン製の場合もあるようだ)が、何故空を飛べるのだろうか。
飛行機の場合、前後上下に、推力・抗力・揚力・重力という、4つの力が働く。
まず、飛行機には揚力を発生させるための
飛行原理は、既に述べた通り、翼の上面及び下面において
流れの向きを下に曲げることによって翼自体には
上向きの揚力が働くからである。揚力は次の式で表すことが出来る。
1 | |||
揚力:FL= | CL ρ V2 S | (CL:揚力係数、ρ:流体密度、 V:速度、S:基準面積) |
|
2 |
揚力はほぼ速度の2乗に比例して変化するため、
速度が小さくなると揚力は急激に小さくなる。
例えば、速度が半分になれば、揚力は約4分の1になる。
従って、向かい風の方が飛行機から見た流れの速度(相対速度)が
大きくなるので、追い風より揚力が大きくなる。
また、離陸や着陸のときには前進速度が小さいので、
揚力係数の大きな翼形状にする必要があるため、主翼の前後で
「フラップ」を出して大きな揚力が出せるようにしている。
二次元翼理論による飛行原理に関して、循環値と揚力の関係を示す式である、
「クッタ・ジューコフスキーの定理」についてもここで述べておこう。
閉曲線Cについて、曲線の微小線要素ベクトルは、dl、dr、
ds、dxや、
単位接線ベクトルをtとして、tds
との内積等で表すことが多いが、
流体の速度場をvとするときの循環Γは、
Γ=∮C v・tds
で定義される。ここで、「連続の式と非圧縮性」の部分で登場した、
流体の速度場vの回転である、渦度:
ω = rot v
=∇× vを用いると、
線積分と面積分の変換公式である、ベクトル解析のストークスの定理より、
Γ=∮C v・tds
=∫∫S (rot v)・ndS
=∫∫S ω・ndS
が得られる。但し、ここでは、単位法線ベクトルをnとして、
面積要素dSをndSで表している。
揚力Lは、流体の密度を
L=-ρUΓ
で表される。この循環値と揚力の関係を「クッタ・ジューコフスキーの定理」と呼ぶ。
この定理によって、飛行機の翼など形状による揚力と
変化球などのマグヌス効果による揚力が統一して説明される。
鋭利な後縁を伴う翼体が一定の迎角をもって空気中を動くとき、
動き出した瞬間は翼体下面の前縁近くと上面の後縁近くに
クッタの条件とは、「鋭利な後縁を有する物体は、流体中を移動するときに、
後側の
「翼体の上面と下面それぞれを流れる流体は翼体の後縁で出会い物体から離れる。」
「流体は後縁を周り込む動きをしない。」等で言い表される。(Wikipedia)
クッタ条件はクッタ・ジューコフスキーの定理により、循環値を基に翼体の揚力を
算出する際に重要で、「翼が移動を続けるとき、
後方
翼上側の流れは翼上面に沿う。」、「翼の上面と下面を流れる流体は後縁で合流し、
翼から離れた後は互いに平行に流れていく。」という状態がクッタ条件で、
このクッタ条件を仮定に敷くと、翼体周りの循環量は一意に定まる。
また、後縁部では局所的な高速領域が生じ、後縁で生じた渦状の流れが、
翼体が移動するにつれて翼上面を滑りながら後方に取り残される。
この渦は「出発渦(starting vortex)」や「発進渦」等と呼ばれる。
→「束縛渦」、「ケルビンの渦定理」、「ヘルムホルツの渦定理」等も参考。
即ち、一定の迎え角で翼が動き、出発渦が放出されていて、クッタ条件が現れており、
翼周りには相応の強度の循環があるとき、その翼は揚力を発生させていて、
その揚力の強度はクッタ・ジューコフスキーの定理で見積もられるのである。
また、飛行機は前進しなければ揚力を得ることはできない。
そこで、飛行機が前進するための原理として、
例えば、プロペラやジェットエンジンが挙げられる。
比較的小型の飛行機はプロペラで前進している。
プロペラの原理は基本的には扇風機などと同じで、
回転軸のまわりに回転翼という、羽根の断面が
二~四枚くらいの羽根が斜めに取り付けられていて、
これらを回転させて空気を後方に送り出している。
そのときに、一枚一枚の羽根に空気が当たり揚力が働く。
全ての羽根に働く揚力を合計した合力が前進方向の力となり、
推進力になる。或いは、プロペラが空気を後ろに押し出し、
プロペラ自体は前に押し返される作用反作用と考えてもよい。
但し、速く飛行しようとしてプロペラを高速で回転させると、
羽根のまわりの流れが音速を超えて衝撃波が発生し、
充分な揚力が得られなくなり、それ以上の速度を出すことが
困難になるので、大きな推進力を発揮できないプロペラ機では、
音速付近かそれ以上の高速飛行には適さない。
この欠点を解決するものがジェットエンジンであり、
ジェット機の推進装置として利用されている。
一般的には、飛行機を発明したのは、ライト兄弟だと言われている。
でも実際は、その10年前には、日本の二宮忠八の方が、
ライト兄弟よりも先に飛行器の原理に気付いていた。
ライト兄弟が飛行機を発明したのは、1903年。
しかし、二宮忠八が、1891年にカラス型飛行器を、
1893年に玉虫型飛行器を発明していたが、当時の政府に
相手にされなかったことは、あまり知られていない。
通常、ライト兄弟が発明したのは「飛行機」、
二宮忠八が発明したのは「飛行器」と書いて、区別する。
教科書でも、こういうことを全く教えられていないが、
日本人ならば、当然知っておくべき、この程度の内容も
教えていない教育というのは、如何なものだろうか。
シミュレーションとは、「模擬実験」という意味である。
その中でも特にコンピュータを使った数値解析のことを
コンピュータ・シミュレーションと呼ぶ。
流体力学におけるコンピュータ・シミュレーションは、
「数値流体力学(Computational Fluid Dynamics)」、
或いは、これを略して、「CFD」とも呼ばれているが、
分野によってその毛色がかなり異なってくる点に関しては注意を要する。
例えば、機械工学や、物理学等の分野では、風洞実験等の結果と比較して、
科学的に正確な結果を得ることを目標とするが、
ゲーム等のCGやデザイン等の分野では、正確性よりも、
計算速度が高速であることが重視される。
オイラー方程式や、ナビエ・ストークス方程式は、解析的に解けないので、
数値流体力学では、これらの偏微分方程式をコンピュータに数値的に解かせ、
計算によって、近似的に答えを求めることになるのだが、
そのシミュレーション手法には、以下に示す様に、いくつかの方法がある。
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略語 | 何の略か | 和訳 |
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BEM | Boundary Element Method | 境界要素法 |
CFD | Computational Fluid Dynamics | 数値流体力学 |
FDM | Finite Difference Method | 有限差分法 |
FEM | Finite Element Method | 有限要素法 |
FVM | Finite Volume Method | 有限体積法 |
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