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流体力学の運動方程式

「流体力学」、或いは、「流体物理学」は、そのテキストが、
理学向けか、工学向けか、によって、テキストの用語に揺れがある。
或いは、工学の中であっても、土木工学や機械工学、化学工学等、分野によっては、
「水理学(hydraulics)」や「水力学(hydrodynamics)」等と名称が異なっている。
従って、一般的なテキストでは、説明の順序や比重も異なり、初学者には、
混乱を招く可能性がある。これは流体力学の難易度を上げている一因と言えるだろう。
ここでは、初学者を対象とする為、厳密な区別をせず、説明も厳密性を重視しない。
但し、説明の順序は、断片的知識の丸暗記にはならないように多少工夫したつもりである。
※機械工学の「四力」とは、「材料力学」「流体力学」「熱力学」「機械力学」の4つを、
土木の「三力」とは、「構造力学」「水理学」「土質工学」の3つを指すようだ。
他にも、化学の化学工学も、「流体力学」に近い分野を扱うようだ。

目次

流体力学の運動方程式

流体とは何か
ベルヌーイの定理
オイラー方程式
オイラー表現とラグランジュ表現
連続の式と非圧縮性
マッハ数と圧縮性流体
応力とは何か
粘性とは何か
ニュートンの粘性法則
ナビエ・ストークス方程式
ナビエ・ストークス方程式の考察
ナビエ・ストークス方程式の無次元化

流体力学の応用

レイノルズ数
カルマン渦列
タコマ橋の崩落
乱流
境界層とは何か
流体力
抗力とは何か
鮫肌水着とゴルフボールのディンプル
雨滴の終端速度
ストークスの抵抗法則
揚力とは何か
翼型よくがた
飛行機は何故飛べるのか
流体力学のシミュレーション




流体とは何か

物質には、固体・液体・気体の三態がある。
これらは、「相」と呼ばれることもある。
(「固相」、「液相」、「気相」、「相転移」など。)
勿論、高温・高圧下では、液体と気体の両方の性質を持つ、
「超臨界」と呼ばれる状態も存在するし、
更に、高温の環境下では、気体が電離し、
「プラズマ」と呼ばれる状態も存在するが、
ここでは、まず、固体・液体・気体の区別をしよう。
※水は、約647K(約374℃)、約22MPa(約218atm)の臨界点を超えると、
「超臨界状態」である、「超臨界水」になる。例えば、
ペットボトルに使われている、ポリエチレンテレフタレート(PET)は、
エチレングリコール(EG)とテレフタル酸(TPA)のエステルだが、
超臨界水を用いることで、このポリエチレンテレフタレート(PET)を
エチレングリコール(EG)とテレフタル酸(TPA)に加水分解できる。

「固体」は、固有の形を持ち、力を加えても容易には変形しないが、
「液体」と「気体」は、固有の形を持たず、容易に変形する。
この「液体」と「気体」を合わせて、「流体(fluid)」と呼ぶ。
前者は、「固体物理学」或いは、「物性物理学」の範疇であり、
後者は、「流体力学」、或いは、「流体物理学」の範疇である。
一方、「固体」と「液体」は、固有の体積を持つが、
他方、「気体」は、固有の体積を持たない。
例えば、その取り扱いに際し、
前者は、「危険物取扱者」の範疇であるが、
後者は、高圧ガスに関する、別の資格等が必要となってくる。

  体積
固体 変化しない 変化しない
液体 変化する 変化しない
気体 変化する 変化する
※「プラズマ」は、電離した気体であり、例えば、炎や雷、
オーロラなどが代表的である。「プラズマ」も「超臨界状態」も
液体と気体の両方の性質を持つ為、どちらも流体として扱われる。
但し、電磁力や圧縮性の影響は、無視できなくなる。




ベルヌーイの定理

質点系、或いは、剛体の力学に関して、その運動を記述する、
運動方程式は、以下の3種類の保存則を満たしていた。

  1. エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)
    ※「仕事」は、「力の距離的効果」、或いは、「力の空間的効果」、
    「仕事とエネルギーの関係」は、「運動方程式の距離積分」、
    或いは、「運動方程式の空間積分」とも呼ばれる。
  2. 運動量保存則(力積と運動量の関係)
    ※「力積」は、「力の時間的効果」、「力積と運動量の関係」は、
    「運動方程式の時間積分」とも呼ばれる。
  3. 角運動量保存則(力のモーメントと角運動量の関係)
    ※運動量保存則(力積と運動量の関係)は、並進運動の場合、
    角運動量保存則(力のモーメントと角運動量の関係)は、回転運動の場合。
これらの流体力学版がそれぞれ、次のようになる。
  1. ベルヌーイの定理 (Bernoulli's theorem)
  2. ブラジウスの第1公式
  3. ブラジウスの第2公式

解析力学では、運動エネルギーKと位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)U
差を「ラグランジアン」、和を「ハミルトニアンℋ」(力学的エネルギー)として、
前者から、「ラグランジュの運動方程式」を、
後者から、「ハミルトンの運動方程式」を導出した。
ここでは、解析力学の手法に倣い、エネルギー保存則である、
「ベルヌーイの定理」を基点にして、流体力学版の運動方程式を
導出していくという立場をとることにしたい。

流体では、運動エネルギー、位置エネルギー、及び、
圧力エネルギーの和が一定となる。運動エネルギーKは、

  1  
K
mv2
  2  
重力による位置エネルギーUは、
Umgh
外からの圧力のした仕事Wは、
WpV
である。但し、流体は、形が定かではないので、
単位体積当たりの質量、即ち、密度ρ
  m
ρ
  V
を用い、単位体積当たりのエネルギーで、エネルギー保存則を考える。
従って、「ベルヌーイの定理」は、次のようになる。
1  

ρv2ρghp=一定 [Pa]
2  
ここで、両辺の全ての項が、圧力の次元[Pa]=[N・m/m3]であることからも、
単位体積当たりのエネルギー保存則であることが示される。
このベルヌーイの定理は、非粘性かつ非圧縮性流体(理想流体)の
定常流の流線上のみでしか成立しない。

特に、位置エネルギーに変化がない場合、

1  

ρv2p=一定≡p0 [Pa]
2  
と書き直せるが、左辺第1項は動圧(dynamic pressure)、
左辺第2項は静圧(static pressure)、
右辺p0は全圧(total pressure)、 或いは、総圧と呼ばれる。
また、流れの中に物体を置くと、その前面で流れがせき止められ、
流速が0になる点ができる。この点を(よど)み点(stagnation point)と呼ぶ。
(よど)み点では、動圧と静圧の両方が掛かる為、
(よど)み点における圧力は、全圧、総圧となるが、
これを(よど)み点圧力と呼ぶこともある。




オイラー方程式

「ベルヌーイの定理」を時間微分すると、流体力学の「オイラー方程式」を得る。
「ベルヌーイの定理」において、流れに落差がないならh=0で、

1  

ρv2p=一定
2  
である。この両辺をρで割った式:
v2   p  


=定数
2   ρ  
を時間微分すると、右辺は定数なので、0となるが、
v2vx2vy2vz2
であるから、合成関数の微分より、

となる。ここで再び、例えば、重力のような外力Fによる
ポテンシャルエネルギーUを考えると、
F=- U=-gradU
なので、これを右辺に加えて、

を得る。これを「オイラーの運動方程式(Euler's equation of motion)」、
或いは、それを縮めて、「オイラー方程式」と呼ぶ。
これは、単位体積当たりの非粘性かつ非圧縮性の流体(理想流体・完全流体)の運動方程式である。
※「粘性」を無視できる流体を「完全流体」と言い、
さらに圧縮性を無視できるとき、「理想流体」と言う場合もある。

※上記では、参考文献のテキストに従い、重力のような外力をF
表記しているが、実際は、力の次元ではなく、加速度の次元を持つことに注意。
ちなみに、Wikipediaでは、gで表現している。




オイラー表現とラグランジュ表現

流れのスナップ写真のように、測定点を空間に固定し、
無数の流体要素(花びら等)を定点観測するのが、「オイラー表現」である。
(「オイラーの方法(Euler's method)」等ともいう。)
マラソンでいえば、多数のランナーをコース上のある地点で観測し、
「時間を止めて」、多数のランナーの動きを描くようなものである。
時間を止めて、ある時刻における空間上の各流体粒子の速度ベクトルを
描いたものの変遷を描いた曲線を「流線(streamline)」と呼ぶ。

一方、無数の観測者が、各自特定の流体要素に注目し、
追跡観測するのが、「ラグランジュ表現」である。
識別時刻と観測時刻が同一のラグランジュ速度は、オイラー速度に等しい。
(「ラグランジュの方法(Lagrange's method)」等ともいう。)
マラソンでいえば、ある1人のランナーと一緒に走り、
「時間を変化させて」、その動きを描くようなものである。
1つの流体粒子が時間の経過に対して描く軌跡を流跡線(pathline)と呼ぶ。
また、それらの流体粒子をつないだ線は、流脈線(streakline)と呼ぶ。

時間的に変化しない流れ場を定常流(steady flow)と呼ぶ。
一方、時間的に変化する流れ場を非定常流(unsteady flow)と呼ぶ。
流れが時間によって変化しない定常流では、流線・流跡線・流脈線は、
全て一致するが、非定常流では一致しない。

オイラー方程式の左辺において、第一項は、非定常項(unsteady term)、
第二項は、移流項(convective term)、両者を合わせて慣性項と呼ばれる。
例えば、水道の栓を開いた際、流量が増して、
流れが全体として速くなることによる「非定常加速」を受け、
水道の配管が太い部分から細い部分に流入すると、
細い部分は、太い部分よりも流速が速くなり、
流れの遅いところから、速いところに移動することによる「移流加速」を受ける。

また、第一項目の加速度は、時間的加速度(instantaneous acceleration)、
第二項目の加速度は、移流加速度(convective acceleration)とも呼ばれ、
非定常流れの加速度は、両者の和で表される。
即ち、流体要素の加速度をa、速度をvとすると、

  D    
a
v
v +(v)v
  Dt   t  
と定義できる。ここで、小文字のdを大文字のDに置き換えた微分:
D    


+(v)
Dt   t  
を「ラグランジュ微分」或いは、「実質微分(material derivative)」等と呼ぶ。
※この場合、「ラグランジュ微分」に対し、通常の偏微分「/∂t」は、「オイラー微分」とも呼ばれる。
因みに、移流項:(v)vは、 顔文字では、「ダブルピース」を意味するらしい……。

表現方法 オイラー表現
オイラーの方法
ラグランジュ表現
ラグランジュの方法
描像(イメージ) 流線
(streamline)
流跡線
(pathline)
オイラー方程式 非定常項
(unsteady term)
移流項
(convective term)
加速度 時間的加速度
(instantaneous acceleration)
移流加速度
(convective acceleration)




連続の式と非圧縮性

流体力学の「連続の式」:

ρ  

・(ρv) =0
t  
は、単位体積当たりの質量保存則であり、電磁気学の「電荷保存則」:
ρ  

i=0 (ρ:電荷密度, i:電流密度)
t  
にも相当する。「連続の式」を変形し、ラグランジュ微分(実質微分)を用いて表した式:

において、密度が時間的に変化しないという条件、
Dρ  

=0
Dt  
を代入すると、
div vv=0
となり、速度場の発散がゼロとなることが分かる。
これを「非圧縮性(imcompressibility)」と呼ぶ。
「非圧縮性」とは、流体自身の運動によって流体の体積や密度が変化しないことを意味する。

流体の速度場vの発散:div vvは、「膨張度」であり、
div vv > 0のとき、流体は膨張し、 div vv < 0のとき、流体は収縮する。
膨張度がゼロ(div vv=0)の流れは、慣用的に「非圧縮流」と呼ばれている。
また、流体の速度場vの回転: rot v×vは、「渦度」と呼ばれている。

音速をcとし、流速vの音速cに対する比:

  v
Ma
  c
をマッハ数(Mach number)と呼ぶ。一般的な目安として、マッハ数が0.3以上になると、
圧縮性の影響が無視できなくなる。速度変動が音速に比べて十分小さな流体の運動では、
密度変動を無視することができる。密度が時間的に変化しない流れを
「非圧縮流」や「非圧縮性流れ(imcompressible flow)」という。これに対して、
速度変動が音速に比べて無視できないくらい大きい流れでは、密度変動を考慮する必要がある。
この様な流れは、「圧縮流」や「圧縮性流れ(compressible flow)」と呼ばれる。
通常、液体での音速(水中:1500m/s)は気体での音速(空気中:340m/s)に比べて大きく、
多くの場合、非圧縮流として取り扱うことができる。
※例えば、超音速旅客機として知られたコンコルドは、おおよそマッハ数2.0で飛んでいた。




マッハ数と圧縮性流体

流速が音速のおおよそ0.3を超える場合には、圧縮性の影響が無視できなくなる為、
圧縮性の影響を見るには、流速と音速の比、マッハ数Maを基準にして、
次の表に示す様に、流れを分類することが出来る。

非圧縮流 Ma < 0.3 圧縮性の影響が無視でき、
密度の変化を考えなくて良い領域
亜音速流 0.3 < Ma ≤ 0.8 圧縮性の効果を考えなければならず、
衝撃波が発生しない程度の流れ
遷音速流 0.7 ≤ Ma ≤ 1.2 流れ場の中で音速を超える部分と
超えない部分が共存するような状態
超音速流 1.0 ≤ Ma < 5 音速を超える流れで、亜音速に減速される際には、
殆どの場合、衝撃波が発生する
極超音速流 5 < Ma 超音速流の中でも特に速い流れで、
気体の場合は理想気体の仮定が成り立たなくなる

衝撃波とは、その波の通過によって、圧力、温度、及び密度が
不連続に増加するような波である。衝撃波は流れに相対的に音速より速い速度で伝わり、
流れは衝撃波によって超音速から亜音速へと減速される。

高速車両がトンネルに突入すると、車両前面の圧力が上昇し、
その圧力上昇が音速で反対側の出口に向かって伝わっていく現象が起こる。
これを「微気圧波」といい、微気圧波が出口から出るときに大きな音が発生する。
例えば、700系新幹線の先頭が「カモノハシ」形状をしているのは、
トンネルに高速で入った際、空気鉄砲のように、反対側の出口から空気が押し出され、
非常に大きな音が出るという「微気圧波」の発生を低減し、
この問題の影響を小さくする為に考えられた形状で、
新幹線を速く走らせる為の工夫というよりは、
環境に与える影響を小さくする為の工夫である。




応力とは何か

ところで、高等学校の物理では、
単位面積当たりの力を「圧力(pressure)」と定義していたが、
厳密には、単位面積当たりの力は、「応力(stress)」と呼ばれる。
応力には、「接線応力」、或いは、「せん断応力(shear stress)」τと、
「法線応力」、或いは、「垂直応力(normal stress)」σがあり、
「圧力」は、垂直応力の一種である。せん断応力の例としては、
「粘性応力(viscosity stress)」がある。

接線応力 法線応力
せん断応力τ
(shear stress)
垂直応力σ
(normal stress)
粘性応力
(viscosity stress)
圧力
(pressure)




粘性とは何か

「粘性(viscosity)」は、流体力学における「摩擦力」であり、流体が
「どろどろ」しているか「さらさら」しているかを表す物理量である。
粘性があると流体には粘性によるせん断応力 (shear stress by viscosity)が発生する。
この粘性によるせん断応力が、「粘性応力」である。
「粘性応力」が無視できる流体を「理想流体(ideal fluid)」、
或いは、「完全流体(perfect fluid)」と呼び、
その運動方程式を「オイラー方程式」と呼ぶ。
※「粘性」を無視できる流体を「完全流体」と言い、
さらに圧縮性を無視できるとき、「理想流体」と言う場合もある。

一方、「粘性応力」が無視できない流体は、「実在流体(existence fluid)」、
或いは、「粘性流体(viscosity fluid)」と呼び、その運動方程式を
「ナビエ・ストークスの運動方程式(Navier-Stokes equation of motion)」、
或いは、それを縮めて、「ナビエ・ストークス方程式」と呼ぶ。

理想 現実
理想流体(ideal fluid)
完全流体(perfect fluid)
実在流体(existence fluid)
粘性流体(viscosity fluid)
粘性応力が無視できる 粘性応力が無視できない
オイラー方程式 ナビエ・ストークス方程式




ニュートンの粘性法則

水平方向をx、鉛直方向をyとして、水槽の水面上に乗せた平板を速度Uで動かしたときの
流体の速度をuは、水槽の底面からの距離yの関数として、u(y)と表せる。
平板の速度Uが比較的小さい場合、流体の速度u(y)は、平板直下ではuUになり、
その速度は直線的に減少して、水槽の底面付近ではu=0となる。
このように速度分布が直線的である流れは、「クエット流れ(Couette flow)」と呼ばれ、
流体の速度u(y)を水槽の底面からの距離yで 微分したdu/dyを速度勾配(velocity gradient)と呼ぶ。

粘性応力τmは、この速度勾配du/dyに比例し、

  du
τmμ
  dy
で表される。これを「ニュートンの粘性法則(Newton's viscosity law)」と呼ぶ。
ここで、μミュー[Pa・s]=[kg/m・s]は、 粘度(viscosity)、粘性率、或いは、
粘性係数(coefficient of viscosity)と呼ばれる。このニュートンの粘性法則に従う流体を
「ニュートン流体」といい、ニュートン流体に当てはまらない流体を「非ニュートン流体」という。

また、流体の運動には、粘度だけでなく密度も関係し、密度の大きな流体の方が
密度の小さな流体よりも、粘性応力による流体の加速度は小さくなり減速しづらくなる。
そこで、μミュー[Pa・s]=[kg/m・s]を 密度ρロー[kg/m3]で割った値:

  μ
ν
  ρ
を定義し、これを動粘度(kinematic viscosity)、或いは、 動粘性係数νニュー[m2/s]と呼ぶ。
※ラテン文字とギリシャ文字のアルファベットには、
n」と「ηイータ」、 「p」と「ρロー」、 「r」と「γガンマ」、
t」と「τタウ」、 「u」と「μミュー」、 「v」と「νニュー
の様に板書だと区別が難しい場合があり、初学者に混乱を招く可能性がある。
ある意味このことも流体力学の難易度を上げている一因と言えるだろう。




「ナビエ・ストークス方程式」は、単位体積当たりの非圧縮性の流体の運動方程式であり、
ニュートンの運動方程式の流体力学版といえる。基本的には、「オイラー方程式」に
粘性力の項を加えたものであるが、粘性力の項がある為、2階偏微分方程式となる。

ナビエ・ストークス方程式は、ニュートンの粘性法則において、
比例定数として定義した、粘度μミュー及び、 動粘度νニューを用いて、

と表せる。粘性項において、上の式では粘度μミューを、 下の式では動粘度νニューを用いている為、
即ち、両者には上の式を密度ρローで 割ったものが、下の式になるという関係が成り立つ。
※上記では、参考文献のテキストに従い、重力のような外力をF
表記しているが、実際は、力の次元ではなく、加速度の次元を持つことに注意。
ちなみに、 Wikipediaでは、gで表現している。

ナビエ・ストークス方程式は、以下に示す、5つの項によって、構成される。
非定常項+移流項=圧力項+粘性項+外力項
この移流項:(v)vが非線形項であることにより、
ナビエ・ストークス方程式の解の存在と滑らかさ問題は、
物理学の未解決問題の一つであり、$1,000,000のミレニアム懸賞問題の一つとなっている。
※「非定常項」は「時間項」、「移流項」は「対流項」とも呼ばれる。

また、「ローレンツ方程式」は、大気の熱対流を表す
ブシネスク近似(Boussinesq approximation)の
ナヴィエ・ストークス方程式を変形することで得られる。
「ローレンツ方程式のシミュレーション」の記事も参照。
※ブシネスク近似は、「ブシネ近似」と呼ばれることもある。




ここで、「理想と現実」という点で、振動・波動現象との
アナロジーから、ナビエ・ストークス方程式を考察してみる。
例えば、ナビエ・ストークス方程式の外力項がある場合は、
力学的な振動においては、外力による強制振動に相当し、
電気回路においては、外部電源から電圧を印加した場合に相当する。
一方、ナビエ・ストークス方程式の外力項が無視できる場合は、
力学的な振動における減衰振動、或いは、電気回路におけるRLC直列回路に相当する。
さらに、粘性項が無視できれば、理想流体となり、オイラー方程式で表される。
これは、単振動(調和振動)、或いは、LC回路に相当する。

  力学的な振動 電気回路 流体力学
理想(外力なし) 単振動(調和振動)
(摩擦力なし)
LC回路
(電気抵抗なし)
オイラー方程式
(粘性項なし・外力項なし)
現実(外力なし) 減衰振動
(摩擦力あり)
RLC直列回路
(電気抵抗あり)
ナビエ・ストークス方程式
(粘性項あり・外力項なし)
現実(外力あり) 外力による強制振動
(摩擦力あり)
RLC直列回路
(電気抵抗あり・
外部電源から電圧を
印加した場合)
ナビエ・ストークス方程式
(粘性項あり・外力項あり)




ここでは、ナビエ・ストークス方程式(粘性項あり・外力項なし)の場合:

について、さらに式変形をすることによって、無次元化し、
パラメータを一点集中させることができることを示す。
代表速度(流体の平均速度や相対速度など)をV[m/s]、
代表長さ(流体の流れた距離など)をL[m]とすると、
上記のナビエ・ストークス方程式に対し、両辺にLを掛けて、V2で割ると、

の様に式変形できる。ここで、以下の物理量を、

と書き換えることによって、無次元化すると、ナビエ・ストークス方程式は、

の様に式変形でき、右辺第2項にのみパラメータが現れる形となる。
このパラメータを「レイノルズ数(Reynolds number)」と呼ぶ。
→以降の内容は、「流体力学の応用」の記事へ移動。




参考文献

  1. 「なっとくする流体力学」(講談社、2003年)
  2. 「道具としての流体力学」(日本実業出版社、2005年)
  3. 「図解雑学 流体力学」(ナツメ社、2007年)
  4. 「単位が取れる流体力学ノート」(講談社、2011年)

Wikipedia

  1. オイラー方程式 (流体力学) - Wikipedia
  2. ナビエ-ストークス方程式 - Wikipedia
  3. 粘度 - Wikipedia
  4. 流体力学 - Wikipedia
  5. レイノルズ数 - Wikipedia



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