単振り子の周期に関して、第1種楕円積分が現れ、
楕円の弧長に関して、第2種楕円積分が現れる。
また、第1種楕円積分の逆関数として、楕円関数が定義される。
楕円積分と完全楕円積分、ルジャンドル標準形とヤコビ標準形等、
複数の形式が存在して混乱を招く可能性があるので、
これらを整理してみることにした。
単振り子の微分方程式:
の両辺に
dθ |
dt |
ここで、
と置く。この変数変換の式の両辺を微分すると、
となり、また、この変数変換の式の両辺を二乗すると、
であるので、両式より、
となって、積分変数をθからφへと変換することが出来た。
積分範囲は、θ=θm(0≤θ≤π)のとき、
sinφ=1⇔φ=π/2なので、0≤φ≤π/2である。
再び、tmの式に戻って、半角の公式を適用し、
積分変数をθからφへと変換すると、
を得る。ここで、
と置くと、tmは、ルジャンドル(Legendre)標準形の第1種完全楕円積分:
を用いて、
と表せる。K(k)は、ルジャンドル標準形の第1種楕円積分:
において、φ=π/2とした場合である。
ルジャンドル標準形の第1種完全楕円積分において、x≡sinφと置くと、
と積分変数を変換することが出来て、φ=π/2のとき、x=1であるから、
と書ける。これをヤコビ(Jacobi)標準形の第1種完全楕円積分と呼ぶ。
これは、ヤコビ標準形の第1種楕円積分:
において、x=1とした場合である。
ヤコビ標準形の第1種楕円積分を
と置き、その逆関数として、sn(エスエヌ)関数:
x=sn y=sn(y, k)
を定義する。k=0のとき、
及び、k=1のとき、
となって、正弦関数や双曲線正接関数になることが分かる。
また、ルジャンドル標準形の第1種楕円積分において、
と置くと、その逆関数として、振幅関数:
φ=am y=am(y, k)
が定義される。ここで、
sn y=x=sin φ=sin (am y)
であるが、さらにこれに対して、cn(シーエヌ)関数:
及び、dn(ディーエヌ)関数:
を定義する。この定義により、k=0のとき、
となって、それぞれ余弦関数と1になることが分かり、また、k=1のとき、
となって、双方共に双曲線余接関数になることが分かる。
楕円関数を微分してその導関数を求めよう。sn関数の定義により、
が得られるので、このsn関数の導関数を用いて、cn関数の導関数:
及び、dn関数の導関数:
が得られる。
楕円の長径をa、短径をbとし、長径方向にx軸、短径方向にy軸をとり、
動径とx軸とのなす角をφと置いて、角度φに対する楕円の弧長を考える。
楕円の方程式:
x2 | y2 | ||
+ | =1 | ||
a2 | b2 |
第1種楕円積分の時と同様、x≡sinφと置くと、
ヤコビ標準形の第2種楕円積分:
を得る。特に、x=1とした場合:
をヤコビ標準形の第2種完全楕円積分と呼ぶ。
ところで、
sin φ = sn y
の両辺を微分すると、
cos φ dφ = cn y dn y dy
となるが、ここで、
cos φ = cn y
であったから、両辺を割ってやると、
dφ = dn y dy
となる。これらを用いて、第2種楕円積分は、
と変形でき、第2種楕円積分が、dn2 y の積分で与えられることが分かる。
また、第2種完全楕円積分E(k)を母数kで微分すると、
となり、第1種完全楕円積分K(k)と第2種完全楕円積分E(k)に関する一次式で表される。
まず、f(u)≡sn u、f(v)≡sn vと定義すると、
k=0のとき、f(u)=sin u、f(v)=sin vとなり、
k=1のとき、f(u)=tanh u、f(v)=tanh vとなる。
従って、sn関数の加法定理は、k=0のとき、正弦関数sin (u±v)の加法定理と一致し、
k=1のとき、双曲線正接関数tanh (u±v)の加法定理と一致しなければならない。
正弦関数の加法定理と双曲線正接関数の加法定理を以下に示す。
ここで、正弦関数sin (u±v)の加法定理を少し変形してあるが、
余弦関数cosは、正弦関数sinの導関数として、表すことが出来る。
同様に、双曲線正接関数tanhの導関数は、
双曲線正割関数sechの二乗で表すことも出来るので、
これと同様の形式で書くと、双曲線正接関数tanh (u+v)の加法定理は、
次のように変形することが出来る。
両者を比較し、母数kが、0と1の時の条件を満たすような式として、
という形を仮定する(この様な操作を「内挿」と呼ぶ)。
これは確かに、題意の条件を満たすので、
sn関数の導関数を代入して、sn関数の加法定理:
を得る。或いは、分子分母に
sn u cn v dn v-sn v cn u dn u
を掛けて、
と書くこともできる。
楕円積分 | ルジャンドル標準形 | ヤコビ標準形 |
---|---|---|
第1種 | ![]() |
![]() |
第2種 | ![]() |
![]() |
ルジャンドル標準形の楕円積分において、φ=π/2、或いは、
ヤコビ標準形の楕円積分において、x=1とした場合を、完全楕円積分と呼ぶ。
完全楕円積分 | ルジャンドル標準形 | ヤコビ標準形 |
---|---|---|
第1種 | ![]() |
![]() |
第2種 | ![]() |
![]() |
楕円関数 | k=0 | k=1 | 導関数(dx/dy) |
---|---|---|---|
sn(y,k) | sin y | tanh y | cn y dn y |
cn(y,k) | cos y | sech y | -sn y dn y |
dn(y,k) | 1 | sech y | -k2sn y cn y |
|